第49話:ミスディレクション
「シオリ、いいの?」
アメリが、少しだけ不安そうに口を開く。
「大丈夫よ」
シオリは、あっさりと答えた。
「優斗も、私と同じ境遇だから」
「……」
ユウトは、言葉を失う。
五年前に死んだはずの詩織が――
目の前にいる。
それだけでも理解が追いつかないのに、
ここはバルド商会の社長室。
しかも、
さっきまで“バルド”として存在していた。
(……意味が分からない)
思考が、現実を拒否する。
「優斗も……死んじゃったんだね」
シオリが、少しだけ悲しそうに言う。
「……あぁ」
ユウトは、ゆっくりと頷く。
「なんで死んだのかは分からない」
「気がついたら……変な“神”が目の前にいた」
あの光景が、脳裏に浮かぶ。
「……」
一瞬の沈黙。
そして――
「殺されたんだよ」
シオリが、静かに言った。
「優斗も、私も」
「そいつに」
「……は?」
理解が、止まる。
「それと」
シオリは続ける。
「あいつは“神”じゃない」
「この世界の“魔王”なの」
「は???」
思わず声が漏れる。
「いやいやいや」
「ちょっと待て」
「そんな急にファンタジー全開にされても困るんだが?」
「“魔王”なんているわけ――」
言いかけて、止まる。
シオリが、じっと見ていた。
「“神”は信じたのに、“魔王”は信じられない?」
「……」
言葉が、詰まる。
(確かに……)
(俺は、神なんて信じてなかった)
それでも、
あの“存在”は受け入れた。
なら――否定できない。
「でもよ」
それでも食い下がる。
「なんでその魔王が、俺たちを殺して転生させるんだよ」
「しかもスキルまで与えて……」
シオリは、ゆっくりと首を振る。
「違うよ」
静かに、はっきりと。
「転生させたのは、本物の“神様”」
「スキルを与えたのも、神様」
「……」
ユウトの思考が、わずかに追いつく。
「じゃあ…」
「じゃあ、魔王は?魔王は何なんだよ」
間髪入れずに聞き返す。
シオリは一瞬だけ間を置いてから答えた。
「転生した直後――」
「私たちを“別の空間”に引きずり込んだ存在」
「……あ」
記憶が、蘇る。
あの違和感のある場所。
現実とも夢ともつかない空間。
「あいつはね」
「スキルも“自分が与えたように”見せてただけ」
「……」
「全部、嘘」
静かに言い切る。
部屋の空気が、重く沈む。
「……つまり」
「いや……」
ユウトは、かろうじて言葉を絞り出す。
「なんで魔王はそんな事を…」
「分からないの…」
「何が目的なのか…」
「少なくともあいつは」
「私たちの元いた世界に干渉できて」
「神様を模倣できる危険な存在」
「……」
ふと--
あの日の光景が浮かぶ。
(「"暇だから"お前を異世界に送ることにした」)
胸の奥で、
静かに、怒りが灯る。




