第48話:再会
社長室の扉の前。
アメリが静かにノックする。
「どうぞ」
中から、低い男の声が返ってきた。
アメリはドアを半分だけ開ける。
「ユウト様をお連れしました」
「お入りください」
再び、同じ声。
ゆっくりとドアが開く。
その隙間から――
室内の様子が見えた。
「……」
その瞬間。
ユウトは、言葉を失った。
中にいたのは――二人。
一人は、見覚えのある年配の男性。
新居の隣人。
そして、もう一人。
「……」
(……うら飯屋の、親父……?)
思考が、止まる。
「どうぞ」
アメリに促され、
ユウトは、ぎこちなく足を踏み入れる。
扉が閉まる。
静寂。
「やぁ」
年配の男が、穏やかに口を開いた。
「見違えましたね」
「……」
(そうだ)
(今の俺は、昔の俺とは違う)
(動揺を悟られるわけにはいかない)
わずかに息を吸う。
「こんばんは」
「“俺が”カップ麺を考案した、ユウトです」
「本日はお時間をいただき、ありがとうございます」
言い切る。
空気が、わずかに張り詰めた。
「……」
だが――
返事はない。
代わりに。
年配の男――バルドが、
ゆっくりとアメリへ視線を向けた。
そして、指先で軽く合図する。
「……?」
アメリが近づく。
二人は並び、
小声で話し始めた。
「それが……」
「服を……」
「髪も……」
「猫背が……」
断片的にしか聞こえない。
だが――
内容は、分かる。
(……全部、今日のことか)
「……」
一瞬の沈黙。
次の瞬間。
「――ぷっ」
小さな音。
「……え?」
「――あははははっ」
笑い声。
だが、それは――
男のものではなかった。
「ほんと、面白すぎるよ」
「優斗」
「……!」
(この声……)
(忘れたくても、忘れられない)
(忘れるはずがない)
心臓が、強く打つ。
視界が揺れる。
「バルド様っ!!」
アメリの焦った声。
その声を合図にしたかのように――
バルドの姿が、歪む。
輪郭がほどけ、
形が、変わる。
男の影が、崩れ落ちるように消え、
代わりに現れたのは――
白衣を纏った、一人の少女。
「……」
息が、止まる。
間違いない。
いや――
間違えようがない。
「詩織……」
喉が震える。
名前が、零れる。
そして――
「詩織!!!」
叫びが、部屋に響いた。
一拍。
その少女は、少しだけ目を細め――
「久しぶり、優斗」
静かに、そう言った。




