第42話:引越し
翌日。
ユウトはホテルをチェックアウトしていた。
端末にカードキーをかざし、所定の箱にそれを入れる。
それだけで手続きは完了。
「……楽だな」
支払いは前払い。
追加料金があれば、この場で自動的に請求される仕組みらしい。
「便利すぎるだろ……」
小さく呟く。
ひと通り確認を終え、外へ出る。
「さて」
軽く伸びをする。
「引っ越し開始だ」
――とはいえ。
(荷物、何もないけどな)
創造スキルがある以上、準備という概念自体が存在しない。
ユウトはそのまま、徒歩で新居へ向かった。
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しばらく歩き、目的のアパートへ到着する。
落ち着いた外観。
騒がしすぎず、静かすぎもしない。
事前に受け取ったカードキーを取り出し、扉にかざす。
ロックが解除される音。
そのままドアを開けようとした――その時。
隣の部屋の扉が、ガチャリと開いた。
「おや?こんにちは」
声の主に、ユウトは視線を向ける。
「……あ」
見覚えがあった。
年配の男。
(確か……)
ロイドに連れていかれた、あの店――
うら飯屋にいた男だ。
「こんにちは」
軽く会釈する。
「今日からここに住みます。ユウトです」
男は、ゆっくりと頷いた。
「そうですか」
「どうぞ、よろしく」
穏やかな声。
「では、また後ほど」
それだけ言うと、男は外へと歩いていく。
「……」
ユウトは、その背中を見送る。
(……後ほど?)
一瞬だけ引っかかる。
だが、深く考えず扉を開けた。
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部屋の中は、すでにクリーニングが済んでいた。
余計な物は一切ない。
整った空間。
「……綺麗だな」
軽く見回す。
だが――
何もない。
本当に、何もない。
「まあ……」
ユウトは部屋の中央に立つ。
「ここからか」
軽く手をかざす。
まずは――
ベッド。
配置を決め、創造する。
次に――
テーブル。
椅子。
必要最低限。
それだけを揃える。
「……よし」
一通り見渡す。
生活はできる。
それで十分。
「これで」
ぽつりと呟く。
「引っ越し、終わりだな」
あまりにも簡単な引越しだった。




