第40話:運転手とは
工場見学を終え、帰路につく。
アメリは別件があるらしく、その場に残るとのことだった。
「夜も遅くなりましたので、今回は送らせます」
そう言って軽く頭を下げる。
扉を開けると、先ほどの車が待機していた。
黒服の男が、無駄のない動きでドアを開ける。
「どうぞ、お乗りください」
「ありがとうございます」
ユウトは軽く会釈し、車に乗り込む。
「それでは、気をつけてお帰りください」
アメリの声を背に、ドアが閉まる。
車は静かに動き出した。
建物の内部を走り、出口へと向かう。
「……来た時と、違う道なんですね」
ユウトがぽつりと呟く。
「はい」
運転席から、落ち着いた声が返る。
「セキュリティの都合上、出入口は分けております」
「なるほど……」
「……」
「………」
沈黙。
(気まずい……)
妙な静けさが車内を満たす。
(ロイドって、やっぱり例外だったんだな)
ふと、あの軽口の多い運転手の顔が浮かぶ。
(あれが普通じゃないのか)
その間にも、車は滑らかに進み――
やがて、ふわりと浮き上がった。
工業区画を離れ、夜の空へ。
外はすっかり夜になっていた。
無数の光が、街を縁取る。
「……綺麗だな」
思わず呟く。
その瞬間――
けたたましい警報音が鳴り響いた。
「――っ」
視線を向ける。
建物の壁面が一斉に赤く染まる。
「ユウト様」
運転手の声が低く響く。
「魔物の出現を確認しました」
「安全のため、降下いたします」
無駄のない判断。
「……はい、お願いします」
ユウトも短く応じる。
車体が、静かに高度を下げ――
その時。
上空に、一筋の光が走った。
一瞬。
夜を裂くような閃光。
そして--
警報が止む。
赤く染まっていた街は、元の夜景へと戻った。
まるで、何もなかったかのように。
「……」
ユウトはしばらく、その光景を見つめる。
(そういえば……)
ふと疑問が浮かぶ。
「あの」
「はい、なんでしょう」
「魔物って……どこから来るんですか?」
「……」
「……申し訳ございません」
運転手は、一瞬だけ言葉を止めた。
「その点については、存じ上げません」
「考えたこともありませんでした」
「……そうなんですか」
「お時間をいただければ、お調べすることも可能ですが」
「いかがなさいますか?」
(マジメだな……)
ユウトは小さく苦笑する。
「いえ、大丈夫です」
「かしこまりました」
再び、静かな車内。
そのまましばらく進み――
「ユウト様、到着いたしました」
気づけば、ホテルの前だった。
「ありがとうございました」
短く礼を言い、車を降りる。
夜風が、わずかに冷たい。
部屋へ戻る。
ドアを閉めた瞬間――
力が抜けた。
「……はぁ」
そのままベッドへ倒れ込む。
「今日は疲れたな……」
目を閉じる。
今日一日の出来事が、ゆっくりと流れていく。
「……」
静かな夜が、部屋を包み込んだ。




