第35話:ユウトの立ち位置
食べ終えたカップ麺。
その容器が、ただそこにある。
だが――
残っているのは、味の記憶。
「……」
カザフは腕を組んだまま動かない。
(うまかったな…)
思考が止まりきらない。
「量産は可能です」
「この構造であれば――」
「バルド商会の設備なら問題ありません」
ガルドが口を開いた。
「原料の確保も、流通も問題なさそうね」
アメリも同意する。
「むしろ」
視線がユウトに向く。
「問題は――あなたです」
「……?」
ユウトは首を傾げる。
アメリが立ち上がる。
「ユウト様」
少しだけ、言葉を選ぶように。
「今後の立ち位置について、お伺いしてもよろしいですか?」
カザフとガルドも視線を向ける。
重要な話だ。
「立ち位置、ですか」
「ええ」
アメリは頷く。
「共同事業とはいえ」
「あなたの価値は、それだけに収まるものではない」
一拍。
「我々としては――」
「正式に、迎え入れることも検討しています」
空気が少しだけ張り詰める。
だが。
「いや、それは無理です」
ユウトは即答した。
「……理由をお聞かせいただけますか」
ガルドが静かに問う。
「働きたくないので」
「……」
一同。
完全に固まる。
「えっと……」
ユウトは少しだけ補足する。
「ウラジオ商会の時もそうなんですけど」
「どこかに所属すると――」
「仕事、増えるじゃないですか」
「……」
「それが嫌なので」
「属しません」
沈黙。
「……ははっ」
最初に崩れたのはカザフだった。
「ははは……!」
肩を震わせて笑い出す。
「……くっ……」
ガルドも耐えきれない。
口元を押さえながら、笑っている。
「なるほど……それは確かに……」
「合理的ですね……」
完全にツボに入っていた。
「……こほん」
アメリが咳払いをする。
一瞬で空気が戻る。
「……失礼しました」
だが、口元にはわずかな笑み。
「つまり」
アメリは整理する。
「どこにも属さず、自由な立場を維持する、と」
「はい」
「……分かりました」
少しだけ間を置いて。
「その条件で受け入れます」
カザフも頷く。
「働きたくないのなら仕方がありませんな」
ガルドも続く。
「契約として明確にしておきましょう」
「ありがとうございます」
ユウトは軽く頭を下げた。
そして――
アメリがふと表情を変える。
「ただし」
「一度」
「代表のバルドにお会いしていただきたい」
空気が、少しだけ変わる。
カザフとガルドも、何も言わない。
だが否定もしない。
「……バルド氏、ですか」
ユウトが聞き返す。
「ええ」
アメリは頷く。
「今回の件、必ず興味を持たれます」
「あなたにも、悪い話ではないはずよ」
「……分かりました」
ユウトはあっさり頷いた。
「興味はあります」
「では」
アメリがすぐに動く。
「後日、改めて謁見の席を用意いたします」
「お願いします」
話はまとまった。
だが――
ユウトは、ふと考える。
(バルド商会の代表、か……)
この規模の商会。
その頂点に立つ人物。
(どんな人なんだ……?)
わずかに、興味が湧く。
そして――
物語は、さらに奥へ進む。




