第31話:裏で動くもの
翌朝、けたたましい警報音で目が覚めた。
「……またか」
寝ぼけたまま呟く。
身体を起こし、無造作にカーテンを開けた。
外の景色は――赤。
建物の壁面表示が一斉に警告色へと変わっている。
だが。
「……静かだな」
通りに目を向ける。
人はいる。
だが誰も走らない。
立ち止まり、空を見上げる者。
その場で端末を操作している者。
――落ち着いている。
遠くで、低い音が響いた。
爆ぜるような、何かがぶつかるような音。
だが魔物の姿は見えない。
「ずいぶん遠いな。」
そう呟いた瞬間――
警報が、止んだ。
赤く染まっていた壁面表示が、一斉に元の色へ戻る。
何事もなかったかのように。
通りの人間も、自然に歩き出す。
「……平和だな」
皮肉混じりに呟き、カーテンを閉めた。
そして――
「腹減ったな…」
ベッドから降りる。
「考えるのも面倒だな」
「カップ麺でいいか」
テーブルへ向かい、軽く手をかざす。
見慣れた形の容器にお湯が入った状態で、現れた。
椅子に座り、朝の静寂と共に3分待つ。
蓋を開ける。
立ち上る香り。
「……これだよな」
割り箸を割り、麺を持ち上げる。
ズズ、と音を立ててすする。
「……うまい」
シンプル。
だが完成されている。
この世界には存在しない“完成度”。
もう一口。
そして、ふと手が止まる。
「……ん?」
視線が、カップに落ちる。
「これ――」
ゆっくりと、思考が回り始める。
「ラムネは、どちらかと言えば嗜好品だった」
あれは売れる。
だが、あくまで“あれば嬉しいもの”。
「でもこれは違う」
カップを持ち上げる。
「これは“生活を楽にする”もの」
料理をしなくていい。
材料もいらない。
「時間を短縮できる」
ぽつりと呟く。
「これ……売れるわ」
しかも――
食べれば無くなる。
また買う。
対象も広い。
兵士。
商人。
一般人。
「……ラムネより上を目指せるな、これ」
はっきりと断言する。
「いや、比較にならねぇか」
桁が違う。
しばらく無言でスープを飲み――
カップをテーブルに置いた。
「……問題は」
静かに呟く。
「誰に売らせるか、だな」
ウラジオの顔が浮かぶ。
「ウラジオ商会には、ラムネとルービックキューブがある」
あれはブランドになる。
広げる力もある。
「だから――それでいい」
無理に重ねると疎かになる可能性もある。
視線が少しだけ鋭くなる。
「カップ麺は、別で動かす」
頭の中で、いくつかの商会が浮かぶ。
その中で――
「バルド商会」
一つの名前で思考が止まる。
ウラジオは警戒しているようだった。
だが――
「別に悪い商会じゃない」
実力も判断力もある。
規模もある。
「……ちょうどいい」
小さく笑う。
「カップ麺は、バルドに売らせる」
ウラジオ商会に正面からぶつける気はない。
ラムネはウラジオ。
カップ麺はバルド。
「住み分けだな」
そして――
「その両方から、俺が利益をもらう」
ぽつりと呟く。
誰か一人に肩入れするつもりはない。
「全部使う」
その方が――
「儲かる」
シンプルな結論だった。
「……まぁ」
椅子にもたれかかる。
カップを指で弾く。
コツン、と軽い音。
「ラムネはウラジオ商会」
「カップ麺はバルド商会」
そして――
「どっちも、俺の金になる」
立ち上がる。
窓の外に目を向ける。
さっきと変わらない街。
「そうと決まれば」
「行ってみるか--バルド商会」
その声は軽い。




