第28話:静かな夕焼け
店を出ると、西日が街を橙色に染めていた。
「ごちそうさま」
ユウトは店内に向けて言った。
「おう、また来いよ」
店の奥から親父の声が聞こえた。
空気はゆっくりと夕方へと移り変わっている。
「じゃ、行くか」
ロイドが気軽に言う。
「ああ」
ユウトは短く返し、車へと乗り込んだ。
車体がふわりと浮き、そのまま静かに空へと滑り出す。
眼下に広がる街並みが、ゆっくりと遠ざかっていく。
「で?どうだった?」
「何がだ?」
「あの店だよ。うまかっただろ!」
ロイドは満足気に言う。
「あぁ、運転も飯屋選びも一流だったよ。」
ユウトは窓の外を見たまま、それ以上何も答えなかった。
「だろ?」
ロイドは嬉しそうに笑みを浮かべた。
やがて、ウラジオ商会が見えてくる。
車は高度を落とし、静かに着地した。
「着いたぞ」
「ああ」
短く返す。
「ありがとな」
車を降り運転席のロイドに礼を言う。
「いいってことよ」
ロイドはいつもの調子で笑った。
「俺はちょっと別件あるからよ。先行っててくれ」
「分かった」
「そうだ!部屋が決まったなら後で場所教えろよ!」
「お前を探すの苦労したんだぜ」
ユウトは軽く手を上げる。
ロイドはそれに応えるように片手を上げ、そのまま車を浮かせた。
夕焼けの空へと消えていく。
ユウトは一人、商会の入口へと歩き出す。
そして、そのまま中へと入っていく。
――場面は変わる。
うら飯屋。
静かな空間に、食器の小さな音だけが響く。
カウンターには二人の男。
店の親父と――年配の男。
親父がぽつりと呟く。
「……まさか、彼がここに来るとは」
視線は、すでに誰もいない入口へ向いている。
年配の男は何も答えず、焼魚を一口食べる。
ゆっくりと咀嚼し、飲み込む。
そして――
「……変わらないな」
低く、そう言うと
年配の男の口元に、ふっと微かな笑みが浮かんだ。
「……これから、どうしますか?」
親父は静かに問いかける。
わずかに間が空く。
年配の男は、箸を置いた。
「まだ早い」
短く、はっきりと。
「私たちの正体を明かすのは」
その言葉が、静かな店内に落ちる。
――その瞬間。
店の扉が開いた。
カラン、と小さな音が鳴る。
入口に立っていたのは、黒服の男。
背筋を伸ばし、深く一礼する。
「お迎えにあがりました。バルド様、タナベ様」
店内の空気が、わずかに張り詰めた。




