第17話:工場見学
「……一つ、お願いがあるんですが」
ユウトはウラジオに視線を向ける。
「ラムネの製造現場、見せてもらえませんか?」
ウラジオはすぐに頷いた。
「構いませんよ」
「共同で進めている案件ですし、ユウト殿が確認されるのは当然です」
(……共同、か)
その言葉に、わずかに実感が湧く。
「ありがとうございます」
それからほどなくして――
ユウトたちは車に乗り込んでいた。
運転席にはロイド。
助手席にはレイヴン。
後部座席にはユウトとウラジオ。
静かに車が走り出す。
しばらくの沈黙の後――
「ユウト殿は、レグナス商会をご存じですか?」
ウラジオが口を開く。
「少しだけですが、商業ギルドで話を聞きました」
「品質重視で、“レグナスの品なら間違いない”って言われてるとか」
ウラジオはわずかに目を細めた。
「ま、まあ、そう言われてますね」
「よくご存知で」
「有名みたいなので」
「ええ。その通りです」
悔しそうな顔で静かに頷く。
「高級品を中心に扱い、信頼で市場を築いてきた商会です」
一拍置いて――
「そして、我々のライバルでもあります」
空気がわずかに引き締まる。
「やっぱりそうなんですね」
「ええ」
短く肯定する。
「代表のレグナスとは、昔からの付き合いでして」
「友人ではありますが……商売の話になると別です」
わずかに笑う。
「負けるつもりはありません」
その言葉に、静かな熱が宿る。
「だからこそ、先ほどのご判断、見事でした」
「……先ほど?」
「酒入りラムネの件です」
「ああ……」
思い出す。
「破裂する危険性があると分かった段階で、すぐに見送る決断をされた」
「簡単なようで、あれはなかなかできることではありません」
「そうですか?」
「ええ」
ウラジオは頷く。
「利益が見込める商品ほど、人は判断を誤ります」
「多少のリスクには目をつぶりたくなるものですから」
一拍置く。
「ですがユウト殿は、“売れるか”ではなく“売っていいか”で判断された」
「商売として、非常に正しい判断です」
(……そういうもんか)
確かに危険なものを売る気はなかった。
だが――
(いや、単純に面倒だっただけなんだよな)
改良。検証。安全対策。
考えるだけで気が遠くなる。
(絶対、仕事増えるし)
だったらやらない。
それだけの話だった。
(……まあ、黙っとこう)
---
「着いたぞ」
ロイドの声で会話が途切れる。
車が下降し止まる。
目の前には、大きな工場。
中に入る。
その瞬間――
(……は?)
思考が止まる。
整然と並ぶ設備。
無駄のない動線。
正確に動き続ける生産ライン。
昨日、話したばかりのはずだ。
それなのに――
(いや、早すぎるだろ)
瓶が流れる。
液体が充填される。
正確に封がされる。
すべてが完成された動きで連動している。
「現在は試験段階ですが、ほぼ完成形です」
ウラジオが説明する。
(試験段階……?)
どう見ても完成している。
「……ラムネの量産の話をしたのって昨日の夜ですよね」
「ええ、そうですね」
「一晩で、ここまでですか?」
「既存の技術を応用した形です」
「基礎設備はありましたので、調整と最適化を行っただけですね」
「この程度であれば、難しいことではありません」
(いや、それが一番おかしいだろ)
改めて工場を見る。
(レベルが違う)
「問題はなさそうですね」
「ええ。品質も安定しています」
「量産にもすぐ移行可能です」
(……だろうな)
「……すごいですね」
ウラジオはわずかに目を細めた。
「ありがとうございます」
目の前にはウラジオのドヤ顔が。




