第161話:金より嬉しいもの
美容室からの帰り道。
チラッ。
チラッ。
周囲の視線が、ユウトへ向けられていた。
「ねぇ、あの人……」
普段のユウトなら、逃げ出したくなるような視線。
だが、今のユウトはまったく動じない。
「嘘だろ……」
「なんだ、あのアクセサリー」
むしろ。
かっこいい髪型。
オシャレな服。
かっこいいアクセサリー。
もっと見てほしい。
そう思うと、自然と顔が上を向いた。
服とアクセサリーがよく見えるように、背筋も伸びる。
「どこで買うんだ? あれ……」
「なんか、逆に上級者のファッションなのかも?」
姿勢が良くなることで、呼吸が深くなる。
呼吸が深くなることで、心が少し落ち着く。
そして。
心の底から、自信がみなぎってくる。
「じゃなきゃ、あそこまで堂々としてられないって」
胸を張り歩く。
「お、俺もやってみようかな……」
少しずつ周囲にも伝染していく。
(なんか騒がしいな……)
その時。
「あ、あの……お兄さん」
「え……」
一人の若い男性に、ユウトは呼び止められた。
男性は、少し緊張した様子でユウトの腕を見る。
「そのアクセサリー、どこで売ってるんですか?」
「これ……」
ユウトは、自分の腕に視線を落とした。
黒いチェーンのブレスレット。
模様が刻まれた幅の太い黒い指輪。
黒いドクロの指輪
黒い十字架のネックレス。
「自分で作った物で、非売品なんです」
「そ、そうですか……」
若い男性は、少し残念そうに肩を落とした。
「かっこよかったので……」
その言葉を聞いた瞬間。
ユウトの表情が、唐突に変わった。
「……」
胸の奥が、じんわりと熱くなる。
かっこいい。
そう言われた。
知らない誰かが。
自分の作った物を見て。
そう言ってくれた。
「あ、あの……」
ユウトは、少しだけ迷ったあと、口を開いた。
「明日、屋台のエリアに来てくれたら……」
「その……売ります!」
「本当ですか!?」
目の前の男性の顔が、ぱっと明るくなった。
「絶対行きます!」
「お、俺も買いに行きます!」
「私も!プレゼントに!」
いつの間にか、周囲の人々もユウトの元へ集まり始めていた。
(なんだ……この感じ……)
湧き上がる嬉しさ。
自然と、顔が笑顔になる。
「ま、待ってます……」
「あっ、いえ……」
ユウトは慌てて言い直した。
「お待ちしてます!」
「じゃあ、準備するのでこれで……」
「ありがとうございます!」
ユウトは軽く頭を下げ、その場を離れた。
ハンバーガー。
パソコン。
自転車。
それらの利益で、十分な収入が見込める。
いまさら屋台で商売する必要はない。
だが。
声をかけてくれた人たちの、嬉しそうな表情。
自分の作った物を欲しいと言ってくれたこと。
それが、妙に嬉しかった。
(たまになら、いいか……)
自然と口元が緩む。
周囲の視線を浴びながら、ユウトはゆっくりと歩みを進めた。
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帰宅後。
ユウトの部屋。
「さて……」
ユウトは、さっそくテーブルに手を向けた。
そして、次々とアクセサリーを創造していく。
謎の模様が刻まれた、幅の広い指輪。
チェーンで繋がった、二連のリング。
赤と黒が交差したネックレス。
黒い十字架。
ドクロの装飾がついたブレスレット。
思いつく限りのアクセサリーを、次々と創造した。
さらに。
以前、アメリやシオリにいじられた服。
意味の分からない英語がプリントされた服。
切れ目やチェーンが装飾された妙に尖ったデザイン。
(これも数量限定で販売してみよう)
自分のファッションを分かってくれる人がいる。
これは売れる。
自信が、確信へと変わっていた。
「そうだ!」
さらに、アイディアが溢れ出す。
黒いマニキュア。
紫の口紅。
(これは女性用だな!)
そして、極めつけは――
黒いマント。
テーブルには乗り切らないほどの商品が並んでいた。
「か、完璧だ!!」
どれも自分が付けたい。
そう思いながら、ユウトは商品を見渡した。
「あとは……」
その時。
コンコンコン。
扉をノックする音が響いた。
作業に集中していたユウトは、嫌そうな顔で扉へ視線を向ける。
その姿は、まさに職人だった。
「はーい……」
渋々、玄関へ向かう。
扉を開けると、そこにはマヤが立っていた。
「どうしたんです?」
「あれ?仕事の時間じゃ……?」
「今日は、レセプションのお誘いに……」
マヤは、少し恥ずかしそうに視線を逸らした。
「ゆ、ユウトくんと行きたいと思って……」
「それで……」
「レセプション?」
聞き慣れない言葉に、ユウトは戸惑う。
「あっ」
マヤは慌てて説明した。
「お店をオープンする前に、関係者や身内の人で開催する食事会です」
「へぇー……」
「こ、これ……」
マヤは恥ずかしそうに、招待状をユウトへ手渡した。
(まだ仕事が、残ってるんだけど……)
ユウトは、部屋の中に並んだアクセサリーを見る。
そして、少し考えた。
(でも、店がどうなってるか見ておきたいしな……)
「じゃ、行きましょうか!」
そのまま部屋を出ようとするユウト。
「はい!」
マヤは嬉しそうに返事をした。
そして。
「って、えええええ!!」
ユウトの姿を見て、ようやく驚いた。
「か、髪が……」
「あぁ」
ユウトは少しだけ照れながら言う。
「さっき、美容室に」
「す、すごくいい……と思います」
「ど、どうも……」
少し照れるユウト。
女性に褒めてもらえる。
素直に嬉しかった。
「そういえば……」
照れ隠しのように、ユウトは話題を変える。
「ウラジオバーガーの広告、目立ちますね」
「まさか本人が宣伝するなんて」
「あれ、私のアイディアなんですよ」
マヤは、にこっと笑った。
「商品開発室なのに?」
「商会の利益に、部署も役職も関係ありませんよ」
「そういうものなんですね……」
「フフッ」
マヤは少し誇らしげに笑った。
「車を待たせてるので、行きましょう!」
「えっ……」
ユウトの表情が、わずかに固まる。
(まさか……)
二人はアパートを出る。
アパートの前には、車が停まっていた。
ユウトが恐る恐るドアを開けると――
「よう!久しぶりだな!」
「ずいぶんイメージ変わったな?」
ロイドだった。
「お前かよ!」
「なんだよ!ドランの方が良かったか?」
「いや……」
ユウトは、心底ほっとしたように言う。
「むしろ、安心した」
「ハハッ! そう言うなよ」
ロイドは豪快に笑う。
「あいつ、面白いだろ!」
(そこかよ……)
「それにしても……」
ロイドはユウトの腕を見る。
「なんだ、その腕?」
「腕?」
マヤもユウトの手元に視線を向けた。
黒いチェーンのブレスレット。
黒くて幅の広い指輪。
黒いドクロの指輪。
そして、よく見ると首元には黒い十字架のネックレス。
「ひええええええ!」
マヤの口から、悲鳴にも近い叫び声が漏れた。
髪型は良い。
服も悪くない。
だが。
アクセサリーの圧が、強すぎた。
「アッハッハッハ!」
「相変わらず、おもしれーな!」
マヤの反応を見てロイドが腹を抱えて笑い出す。
「これから流行るんだよ!」
ユウトは、少しムキになって言い返した。
「そ、そうなのか……」
「よく分かんねえもんだな」
ロイドの顔が、わずかに引きつる。
「……」
マヤは、言葉を失っていた。
そして。
二人を乗せた車は、ゆっくりと浮かび上がる。
行き先は、ウラジオバーガー一号店。
第161話「金より嬉しいもの」を読んでいただき、ありがとうございます。
ここまで読んでいただけたことが「金より嬉しいもの」です。
そんな作者とユウトを、もう少し見守ってもいいかなと思っていただけましたら、ブックマークや評価で応援よろしくお願いします。




