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最強の創造スキルを手に入れた俺、異世界で大儲けできると思ったら現代科学より上でした  作者: おりこー3


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第160話:謎の男の正体

美容師歴三年。


モエカは、窮地に立たされていた。


お客様のファッションや好みに合わせたカットをする。


そこまでは理解できる。


だが。


お客様のファッションが、理解の範疇を超えてしまった。


もう少し、ヒントが欲しい。


「アクセサリー、お好きなんですか?」


「好きというか……」


ユウトは少し考える。


「自然と、こうなりました」


「……」


どう自然に進んだら、ここまで不自然なルートに行き着くのか。


モエカの中で、さらに謎が深まってしまった。


モエカは、他のスタッフへ視線を向ける。


助けを求めるように。


しかし。


みんな、静かに目を逸らした。


裏切られた。


「そ、そうですよね」


モエカは、笑顔を保つ。


「と……とてもよくお似合いです」


「えっ……」


ユウトの目が、少しだけ見開かれる。


「あ、ありがとう……ございます!」


そして、少し照れたように言った。


「よく言われます」


「……へ、へぇー」


いったい、どこのどいつだ。


心の中で突っ込むモエカ。


「……」


「……」


会話が、恐ろしいほどに続かない。


このままではまずい。


ここで沈黙に負けるわけにはいかない。


「えっと……」


モエカは、鏡越しにユウトを見る。


乱れた黒髪。


伸びた前髪。


顔色は少し白い。


目元は暗い。


だが、少し視力を落として見れば顔立ちは悪くない。


髪を整えれば、かなり雰囲気が出るタイプかもしれない。


そう思うことにした。


問題は。


アクセサリーの主張が強すぎることだった。


……。


それこそが大問題だった。


「今日は……」


モエカは慎重に言葉を選ぶ。


「今の雰囲気を活かしつつ」


「少し清潔感を出す感じで、いかがですか?」


「清潔感……」


ユウトは、鏡の中の自分を見る。


清潔感。


聞き慣れない言葉だった。


「つまり……」


ユウトは、真剣な顔で尋ねる。


「綺麗になるってことですか?」


そうではない。


だが。


詳しく説明しても彼は混乱するだろう。


「か、かっこよく……なります」


「……!」


ユウトの表情が、明らかに明るくなった。


「お願いします」


声に力が入る。


「では、切っていきますね」


モエカの声が、少し変わった。


先ほどまでの困惑はない。


美容師としての顔になっている。


ハサミが、静かに動き出す。


シャキ。


シャキ。


伸びすぎていた髪が、少しずつ落ちていく。


重かった前髪が整えられ。


耳周りがすっきりし。


首元が見えるようになっていく。


モエカは、鏡越しに全体のバランスを確認した。


黒い服。


黒いアクセサリー。


この主張を髪でさらに強めると、危険だ。


だからこそ。


髪型は少し軽く。


目元に影を残しながらも、顔が暗く見えすぎないように。


「少し、前髪を残しますね」


「はい」


「目元の雰囲気は、活かした方が良さそうなので」


「……!」


ユウトの心に、何かが刺さった。


目元の雰囲気。


活かす。


つまり。


今の自分には、活かすべき雰囲気がある。


(プロだ……)


ユウトは、心の中で震えた。


シャキ。


シャキ。


モエカの手は止まらない。


最初は逃げたスタッフたちも、いつの間にかちらちらと様子を見ていた。


あの無茶振りを。


どう着地させるのか。


店内の一部が、静かに注目していた。


しばらくして……


「では、シャンプーしますね」


「はい」


案内されるまま、シャンプー台へ移動する。


椅子に座り、背もたれがゆっくりと倒れる。


人前で仰向けになる羞恥心も。


顔に掛けられた薄い布一枚で、どうにか平穏を取り戻す。


シャンプーは、相変わらず気持ちいい。


だが…。


その時、事件が起きた。


心の平穏を保つ布切れ。


それが、シャンプーの衝撃で少しずつズレてくる。


ユウトは必死に、顔の筋肉を使って元の位置に戻そうとした。


まったく戻らない。


(まずい……)


それどころか、余計にズレてしまった。


(目が……出てる)


諦めずに、顔中の筋肉を必死に動かす。


その時…。


ズレた布を、そっと元の位置に直された。


(み、見られた……?)


ユウトの心臓が激しく鳴り響く。


しかし、何もなかったかのようにシャンプーは続く。


髪が洗い流されていく。


ユウトは安堵した。


そして。


首元に、温かい感触。


(きた!)


前回も体験したマッサージ。


天にも登る、究極の気持ちよさ。


「力加減、大丈夫ですか?」


頭上から、優しい声が聞こえる。


「は、はぃ……」


気持ちよすぎる。


日々のストレスと疲労が、全身の力と共に抜けていく。


特に好きなのは、後頭部だった。


首筋と頭蓋骨の隙間に、指先がぐりぐりと押し込まれる。


「あぁあぁ……」


まるで、風呂にでも入っているかのように。


声が漏れてしまう。


「流しますね」


そう言って、髪全体を洗い流される。


(もう終わりか……)


少し物足りなかった。


席に戻り、ドライヤーで髪を乾かす。


鏡に映る自分の姿。


まだ終わっていないのに、分かる。


今までと違う。


これは――


(いい!)


(すごくいい!!)


鏡を見て、ユウトは感動していた。


「マッサージしてもいいですか?」


モエカが口を開く。


「ぜひ!」


即答だった。


肩を、ぐっと押される。


「ふあぁああ」


再び、声が漏れる。


その様子を見て、モエカが尋ねた。


「お仕事でお疲れですか?」


「はい」


ユウトは真面目に頷く。


「週に三日も働いてるので」


「……」


「そ、そうなんですね」


モエカは、辛うじて笑顔を保った。


「どんなお仕事なんですか?」


「最近だと……」


ユウトは少し考える。


「食べたり、口喧嘩したり、領主と会ったりです」


「……」


何の仕事なんだ。


モエカは、深く聞かないことにした。


「調整しますね」


マッサージを終え、再びハサミに手をかける。


シャキ。


シャキ。


細かく形を整えていく。


そして、ドライヤーで細かい毛を吹き飛ばす。


「目を閉じてください」


そのまま、眉のカット。


仕上げに、ワックスを髪全体に馴染ませる。


指先でつまみながら、ひと束ずつ下ろしていく。


そして。


「お疲れ様でした!」


モエカは、一歩下がった。


「終了です」


ユウトは、鏡の中の自分を見つめる。


「こんな感じで、いかがでしょうか?」


「……」


言葉が出なかった。


そこには、見慣れない自分がいた。


黒髪は、重すぎない程度に整えられている。


目元には、少し影が残っている。


けれど、前より暗くない。


首元がすっきりしたことで、黒い十字架も妙に馴染んでいる。


腕のチェーンや指輪も、不思議とまとまって見えた。


「俺……」


ユウトは、鏡の中の自分をじっと見る。


「こんな顔してたのか……」


その声は、少しだけ小さかった。


けれど。


嬉しそうだった。


モエカは、ほんの少しだけ安心する。


どうやら、気に入ってもらえたらしい。


「アクセサリーも黒で統一されているので」


モエカは、慎重に言葉を選びながら話す。


「髪は少し軽めにして、重くなりすぎないようにしました」


「すごい……」


ユウトは、鏡から目を離せない。


「いいです!」


「ありがとうございます」


モエカは、ほっとしたように微笑んだ。


「一か月ほどで整えると、今の形を保ちやすいですよ」


「い、一か月……」


ユウトは、その言葉を真剣に受け止める。


また来てね。


そう言われた気がした。


「分かりました」


ユウトは、少しだけ背筋を伸ばす。


「また来ます」


「はい」


モエカは笑顔で頷いた。


「お待ちしております」


その言葉を聞いた瞬間。


ユウトの胸の奥で、何かが小さく跳ねた。


美容室。


かなり緊張した。


だが。


来てよかった。


ユウトは会計を済ませ、店を出る。


外のガラスに映る自分を見る。


「……」


少しだけ、歩き方が変わった。


先ほどまでの謎の自信とは違う。


今度は、ほんの少しだけ。


本物の自信だった。


店内では。


モエカが、静かに息を吐いていた。


「モエカさん……」


別のスタッフが近づいてくる。


「よく対処できましたね!」


「……」


モエカは、ゆっくりと振り返った。


そして。


笑顔のまま、言った。


「よくも私を見捨てたわね!!」


「あ、あの……」


別のスタッフが、気まずそうに手を上げる。


「私、思い出したんです」


「今の人……」


「先月、アメリ様がお連れした方だったような……」


「えっ……」


モエカの表情が変わった。


「バルド商会の?」


「はい」


店内に、妙な沈黙が落ちる。


モエカは、さっきのカルテを見直した。


そこには、はっきりと書かれている。


職業。


フリーター。


「……」


「……もしかして」


モエカは、ぽつりと呟いた。


「彼氏……かしら……」

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