第154話:嵐の前の静けさ
レグナス商会からの帰り道。
「……ハァ」
ユウトは、下を向きながら歩いていた。
「いつまで落ち込んでるの?」
セレスが隣を歩きながら言う。
「……落ち込んでない」
「じゃあ何よ」
「何か……」
ユウトは、ぽつりと呟いた。
「大切なものを失った感じがする」
「自転車なら、また創造すればいいじゃない!」
そうじゃない。
「……」
だが、言葉が見つからない。
「はぁ……」
出てくるのは、ため息ばかりだった。
「そうだ!」
セレスが、ぱっと顔を上げる。
「自転車出してよ!」
「ユウトも補助輪付きなら乗れるでしょ?」
その言葉を聞いた瞬間。
ユウトは、膝から崩れ落ちた。
「ちょっと、何してるのよ」
「……」
「それにしても……」
ユウトは、膝をついたままセレスを見上げる。
「レグナスに言わなくて良かったのか?」
「ああ……」
セレスは、少しだけ考えるように空を見た。
「まだ早いわよ」
「三大商会の連携には……」
「まず、自転車の販売を最優先にしてもらった方がいいわ」
「そうなのか……?」
「当たり前じゃない」
セレスは、ユウトを見る。
「乗れる人が増えないとね」
「……それもそうか」
「さっ」
セレスは、ユウトの前で立ち止まる。
「これから忙しくなるんだから」
「いつまでも膝をついてないで、進みましょ!」
そう言って、手を差し伸べた。
「誰のせいだよ!!」
ユウトは文句を言いながらも、その手を掴む。
セレスは、くすっと笑った。
「フフッ」
「帰ったら、また訓練よ!」
「またオムライスかよ……」
「さあ、どうかしらね」
「嫌な予感しかしない……」
沈みかける太陽が、街にオレンジ色の光を灯していた。
長く伸びた二人の影が、ゆっくりと並んで歩いていく。
まるで。
その後ろ姿を静かに見守るように。




