第148話:パセリと青のりの違い
翌朝。
コン、コン。
コン、コン。
ドン、ドン、ドン。
(うるせぇ……)
ノックの音で、ユウトは目を覚ました。
コン、コン。
「……」
ユウトは布団に潜り、居留守を使う。
「……」
(行ったか?)
「……」
ガチャ。
(嘘だろ!)
(開けたぞ……)
ノソノソと、誰かが部屋に入ってくる。
そして。
「起きろおおおおお!」
突然、大声でユウトを起こすセレス。
「うるせええええ!!」
「おはよう」
セレスは、にこっと笑った。
「なんで、居留守使ってるのに入ってくるんだよ!」
「ユウトが朝から活動することなんて無いでしょ」
「……うっ」
「鍵は!?」
「持ってるわよ?」
セレスは、カードキーを見せつけた。
「……」
「は?」
「なんで……」
「前にスペアを作ったのよ」
「俺のプライバシーが……」
「そんなこと、どうでもいい!」
「よくねぇよ!」
「お腹すいたし、修行を始めましょう」
(ついに本性出しやがった……)
「今回は、少しだけ難易度を上げるわよ」
「オムライスだろ……?」
「違うわ」
セレスは胸を張る。
「トロトロ玉子のオムライスよ」
「やっぱオムライスじゃねえか……」
「早速始めるわよ」
「いい?」
「あ……はい」
「このテーブルに、皿を2枚イメージして」
セレスはテーブルを指差した。
「それぞれの皿の横にスプーン」
「皿の中央に、楕円形のチキンライス」
「昨日のチキンライス、少し味が濃かったわよ」
「俺は濃いめが好きなんだよ」
「集中しなさい!」
(ええ……)
「グリンピースは入れないでね」
「チキンライスの上に、トロトロの半熟玉子をのせて」
「いい?」
「半熟よ!」
「わかったよ」
「オムライスに、デミグラスソースを直線で掛けて」
「……」
「最後に、ドライパセリをふりかけて完成」
(あの青のりみたいなのだよな……)
「イメージできた?」
「ああ……いや、はい」
ユウトは、テーブルに手をかざした。
虹色の光が広がる。
そして。
「どうだ!」
光が消えた瞬間。
テーブルの上には、トロトロ玉子のオムライスが2皿並んでいた。
「……ダメね」
「なんでだよ」
「これ、ドライパセリじゃなくて青のりよ!!」
「あっ……」
「そんな変わらないだろ」
「違うわよ!」
セレスは真剣な顔で言った。
「やり直し!」
「ええー」
「もし……」
セレスは、青のりのかかったオムライスを指差す。
「水だと思って創造したものが、ガソリンだったらどう?」
「それは……」
ユウトは、何も言えなくなった。
「……」
黙って、青のり掛けのオムライスを消去する。
「わかったよ……」
再び、イメージし直す。
(ドライパセリ……)
(トロトロの半熟玉子……)
(グリンピース抜きのチキンライス……)
(デミグラスソース……)
(あっ、チーズも掛けたら美味そうだな)
ユウトは、もう一度テーブルに手を向けた。
虹色の光。
そして。
「どうだ!!」
光が消え去り、セレスが目を見開く。
「なんで、チーズ掛けてんのよ!!」
「そこは職人のこだわりだよ」
「食ってみな」
「飛ぶぞ」
ユウトは、得意げに言う。
「もう……」
そう言いつつ。
セレスの目は、明らかに輝いていた。
ゴクリと、喉を鳴らす。
スプーンを手に取り、口に運び――
「……ユウト」
「ん?」
「この茶色いのって……」
「デミグラスソースだろ」
「ソースとケチャップ混ぜただけじゃない!」
「うちではそれをデミグラスソースって呼んでたぞ?」
「……」
「そ、そう……」
セレスは、それ以上何も言わなかった。
そして、黙って食べ進める。
ユウトも、とりあえず自分の分を食べ始めた。
「ところで……」
ユウトは、スプーンを動かしながら口を開く。
「一応聞くけど」
「今回のは、何の修行なんだ?」
セレスの口元が、ニヤッと緩んだ。
「聞きたい?」
「しょうがないな!」
(うぜぇ……)
「玉子を半熟に仕上げる、繊細なコントロールよ!」
「……え?」
「それだけ?」
「そうよ?」
「ステーキのレアとか、ミディアムレアの方が良くないか?」
「朝から食べたくないわ」
「ま、まぁ……」
「次よ!」
オムライスを食べ終わり、セレスは口元を拭いた。
「手のひらサイズのショートケーキ出して」
「え……」
「ユウトも食べたいなら2つね」
「それと、マグカップにコーヒーもお願い」
「ミルク多め、極甘で!」
「喫茶店の客かよ!!」
「修行よ!」
「はぁ……」
ユウトは深いため息をつく。
「ケーキと甘いコーヒーで良いんだな?」
「そうよ」
セレスが、にこっと笑う。
ユウトの口元も、ニヤッと緩んだ。
(砂糖とミルク、大量に入れてやる)
テーブルに向けて手をかざす。
虹色の光と共に、ショートケーキとコーヒーが現れた。
いや。
コーヒーと呼んでいいのだろうか。
うっすら色はついている。
だが、ほとんど白に近い。
ひとまず、セレスはショートケーキを口に運ぶ。
そして。
コーヒーらしき液体を啜った。
その姿を、ユウトはワクワクしながら見つめていた。
「うん、美味しい!」
「は?」
(失敗したのか?)
セレスは、何事もなかったようにケーキを食べ進める。
そして、白いコーヒーも飲み干した。
「ごちそうさまでした」
「またお昼に来るわ」
満足したのか、セレスは立ち上がる。
そして、そのまま部屋を出ていった。
「……」
ユウトは、空になったマグカップを見つめる。
「……いや」
「確認しとくか……」
ユウトは、手のひらをテーブルに向けた。
セレスに出したものと同じコーヒー。
それをイメージする。
次の瞬間。
テーブルには、ほとんど白い例のコーヒーが現れた。
ユウトは恐る恐る、マグカップを口に運ぶ。
そして。
一口、啜った。
「うっ……!」
喉が焼けるほど甘い。
混ざりきらなかった砂糖が、ジャリジャリと口の中に残る。
「ゲホッ、ゲホッ!」
ユウトは、涙目でマグカップをテーブルに置いた。
「どんな味覚してんだよ!!」




