第145話:社長の背中
「はぁ……」
窓から商業ギルドの中を覗くユウト。
いや。
バルド。
(入りにくい……)
(どうすればいいんだ……)
頭の中で、選択肢を思い浮かべる。
1、このまま中に入らず車に戻る。
2、こっそり中に入り、しれっと会話に混ざる。
3、誰かを呼んで演出してもらう。
(1は、後で怒られそうだな……)
(2は論外だ。威厳がなくなる……)
(3も無理だ。俺には人望がない……)
「うーん……」
「……ん!?」
ふと、中にいるセレスの顔が目に入った。
笑った。
こっちを見て、セレスがニヤリと笑った。
「あいつ……!」
(この状況を楽しんでやがる……)
「……」
(こうなったら……)
────────
商業ギルド。
「あの金の亡者なら」
アメリが、呆れたように口を開いた。
「手数料で儲かると言ったら、大喜びでした」
「なるほどな……」
ワイトが納得したように頷く。
「でも、よろしいのでしょうか?」
ケイトが少し不安そうに言う。
「こちらが簡易化されるのに、その上お金まで取ってしまって……」
「フフフ」
セレスが、にこりと笑った。
「決算が楽になって助かるのは、お互い様よ」
「まぁ、確かにな」
ワイトは腕を組む。
「ところで、お前らんとこのボスはどうした?」
「どうしたのかしら?アメリ」
セレスがニヤリと笑う。
「ええ」
アメリも、わざとらしく首を傾げた。
「どうしたのかしらね?シオリ」
その時。
ギルドの扉が開いた。
「失礼いたします」
現れたのは、ステイルだった。
ステイルは中に入り、横へずれる。
そして、静かに頭を下げた。
「ホッホッホ」
低い声が響く。
「ありがとう」
「ステイル」
その後ろから、バルドが姿を現した。
勝ち誇ったように、セレスとアメリへ視線を向ける。
「……」
言葉を失う二人。
「社長」
ステイルは、静かに頭を下げた。
「私はこれで」
「おぉ、そうか」
バルドは満足そうに頷く。
「ご苦労さま」
ステイルは一礼し、静かに下がった。
「さて……」
バルドは、ゆっくりとギルド内を見渡した。
「私も、話に混ぜてもらおうかのう」
「……」
ギルド内の注目が、バルドに集まる。
(見たか!)
(俺の奥の手!)
「……」
(……ん?)
(なんで、みんな無言なんだ?)
「あの……」
副マスターのケイトが、恐る恐る口を開いた。
「もう、終わりましたよ」
「え……」
「手数料について……」
「伺っております」
「……」
バルドは固まった。
「おぉ、そうか」
「そうか、そうか……」
口元を震わせながら無理やり笑う。
「では、アメリ」
「シオリくん」
「それと……」
「ゲルドです!」
「そうだったな。ゲルド」
バルドは、重々しく頷く。
「そろそろ行こうか」
そう言って。
逃げるように、商業ギルドを後にした。
遠近法なのか。
錯覚なのか。
とても小さな背中。
「………」
みんな、その背中を黙って見つめていた。
「……」
誰も、言葉を発しない。
だが……
なぜか、目を離せなかった。
バルドの背中。
静かで。
遠くて。
どこか、ひどく孤独に見えた。
「い、行きましょうか……アメリ」
セレスが、気まずそうに口を開く。
「そ、そうね……シオリ」
少しだけ目を湿らせながら頷くアメリ。
「ゲルド、今日はもういいわ」
「かしこまりました……」
ゲルドは、いつになく小さな声で答えた。
「では、また……後日」
「そ、そうだな…」
ワイトも小さく頷いた。
その日。
商業ギルドから、笑顔が消えた。




