第144話:"ああ"
「名前がアーサーっていうのも、納得できないのよね」
「それ!私も思った!!」
(いつまで続くんだ……これ……)
セレスとアメリの、領主に対する悪口が止まらない。
「太ってるのに、アーサーよ?」
「到着しました」
「分かるわ!だって、イケメンに許される名前よね!」
(いいだろ、それは……)
「あと、執事さんに対するあの態度!」
「“ああ”ってなに?“ああ”って!!」
「そういうところで、結婚した時の対応が分かるらしいわよ!」
「じゃあ、あの領主、奥さんにもあんな返事してるわけ?」
「あの……」
「さいてー」
「さいてー」
「アハハハハハハハハ!」
「アハハハハハハハハ!」
声を揃えて笑い合うセレスとアメリ。
その時。
セレスの隣の扉が、静かに開いた。
「恐れ入ります」
ステイルが、いつもの落ち着いた声で告げる。
「到着しました」
「あ……はい」
「ありがとうございます」
急に静かになる車内。
(か、かっこいい……)
ステイルの見事な対応力に、ユウトは唖然とした。
「ほら、置いてくぞ」
ユウトは、笑いながら口を開いた。
ここぞとばかりに、調子に乗ってしまった。
ギロリ。
アメリとセレスの視線が、同時にユウトへ向く。
(やべっ)
「……行きましょう、アメリ」
「そうね、シオリ……」
二人は、不敵な笑みを浮かべて歩き出した。
コツ、コツと。
次第に、ユウトへ近づいてくる。
コツ、コツと。
そして。
ユウトの横を、何事もなかったかのように通り過ぎた。
「何してるの?」
セレスが、振り返る。
「早く行きましょうよ」
「バルド様」
「ああ……」
「“ああ”?」
ぴたり。
ユウトの動きが止まった。
二人は、ユウトに聞こえないように話し始める。
コソコソと。
たまに、ユウトへ視線を向けながら。
「フッ」
アメリが、ユウトを見ながら鼻で笑った。
「な、なんだよ……」
「べつにー!」
「ここにもいたって思っただけよ」
セレスが楽しそうに口を開く。
「あっ……」
ユウトは、少し前の領主に対する悪口を思い出した。
「あ、あの……」
「誠心誠意、バルド役をやらせていただきます」
「よろしくね」
セレスは、にこりと笑った。
ギルドの敷地に入り、ユウトは認識阻害の指輪を使う。
姿が変わる。
そこに立っていたのは、バルド商会代表。
バルド。
「それで……」
ユウトは、低い声を作って言った。
「今度は、どうやって入るんだ?」
「まだやるの?」
セレスが呆れたように言う。
「普通でいいと思うのですが……」
アメリも苦笑する。
「いや、さっきの登場、かっこよかっただろ」
「いかにもバルド様って感じで!」
「また、あんな感じで入りたい」
なぜか、バルドとしての登場演出にこだわるユウト。
「余計なこと言って、台無しにされたけどね」
「……」
「はぁ……」
セレスは、大きくため息をついた。
「分かったわ」
「さっきみたいにお膳立てするから、入ってきて」
「行くわよ、アメリ」
「ええ」
(“ああ”はダメなのに、“ええ”はいいのか?)
二人は、商業ギルドの扉を開けて中に入った。
ユウト。
いや。
バルドは、しばらく外から様子を伺う。
────────
「シオリ様!アメリ様!」
「戻ったか!」
ゲルドとワイトが、二人に気づいた。
「このパソコンとやらはすごいな」
(あれ……?)
「俺には、さっぱり分からんが!」
「それで、どうだった?」
ワイトが身を乗り出す。
「領主は……」
「最低ね!」
セレスが即答した。
「けど、導入の約束は取れたわ」
(予定と違くないか?)
「なんだと!」
ワイトが目を見開く。
「よく、あの領主を説得できたな?」
「いろいろと…」
アメリが、淡々とはと答える。
(おい……)
(俺の登場シーンは……!!?)




