第14話:佐藤詩織 2
部屋のカーテンは閉じたまま。
時計の針は6時を指している。
昼か夜かも分からない。
布団の中で、ただ時間が過ぎるのを待つ。
――コンコン。
扉を叩く音。
「優斗、起きてるの?」
母親の声。
返事はしない。
する理由がない。
「いい加減にしなさいよ……」
小さく、ため息が混じる。
足音が遠ざかっていく。
しばらくして、別の足音。
「いつまでそうしてるつもりだ」
低い声。
父親だった。
「働けとは言わん。せめて外に出ろ」
何も言わない。
言えない。
「……情けないな」
その一言だけ残して、去っていく。
静かになる。
(……うるさい)
そう思うのに、声には出ない。
出す気力もない。
布団を頭まで被る。
薄暗い世界。
ここだけが、落ち着く。
目を閉じると、浮かぶのはいつも同じ光景だった。
帰り道。
夕焼けに染まる街。
ビルが並ぶ、いつもの道。
隣には――詩織がいる。
「ねえ聞いて、今日うちのクラスでさ――」
楽しそうに話す声。
どうでもいい内容。
でも、それが当たり前だった。
「優斗、聞いてる?」
「聞いてるって」
そんなやり取り。
それが、ずっと続くと思っていた。
――あの日までは。
駅から家までのいつもの帰り道。
ビルの脇を歩いていた。
人通りは、そこまで多くない。
いつも通りの帰り道。
「ねえ、優斗-」
そのとき。
上から、何かが落ちてくる気配がした。
「……え?」
違和感。
ほんの一瞬。
反射的に顔を上げる。
――人影。
真上の屋上から、真っ直ぐに落ちてくる。
「危な――」
詩織の声。
強く、腕を引かれる。
体が横に流れる。
視界が歪む。
次の瞬間。
鈍い衝撃音。
すぐ近くで、何かが叩きつけられる音。
(……あ)
遅れて、理解が追いつく。
だが――
違和感。
「……詩織?」
隣にいるはずの存在が、いない。
視線を落とす。
そこにあったのは――
詩織と男物のスーツを着た何か。
男の方は原型が分からない。
詩織も動かない。
血が、ゆっくりと広がっていく。
「……は?」
思考が止まる。
何が起きたのか、分からない。
さっきまで、そこにいた。
笑っていた。
声も、聞こえていた。
(なんでだよ)
「……詩織」
呼ぶ。
返事はない。
「詩織……」
もう一度。
それでも、返ってこない。
布団の中で、ユウトは目を開ける。
暗い天井。
何も変わらない現実。
(……俺のせいだ)
あのとき。
もっと早く気づいていたら。
詩織が俺を庇わなければ。
俺さえ居なければ。
違う結果になっていたかもしれない。
そんな考えが、何度も頭を巡る。
(……だから)
外に出る理由なんて、なかった。
生きている理由も、分からなかった。
ただ。
あの瞬間だけが、何度も何度も繰り返される。
暗闇の中で、ユウトは目を閉じる。
何も変わらない。
何も変えられない。
それでも。
記憶だけは、消えてくれなかった。
昨日の投稿に初めてリアクションを頂けて、とても嬉しかったです。
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