第137話:覚醒
黒。
真っ暗な空間。
「どこだ……」
「ここは……」
何も見えない。
自分の手も。
足元も。
何も。
『……斗』
「え?」
遠くから、声が聞こえた。
『優斗……て』
「誰だ……」
『……て、優斗』
「誰だ!」
『起きて、優斗!』
「えっ……」
────────
「はっ……!」
勢いよく、ユウトの目が開いた。
白い天井。
白い壁。
消毒液のような匂い。
「ここは……」
「優斗!」
「優斗!!」
泣きながら、女性がユウトを抱きしめた。
「えっ……」
「なんで……」
「母さんが……」
「優斗!」
隣にいた男が、安堵したように息を吐く。
「親父……」
「待ってて!」
「先生を呼んでくるわ!」
女性は慌てて部屋を出ていった。
「よかった……」
父親が、震える声で言う。
「どこか痛いところはないか?」
「えっ……」
「大丈夫……だけど……」
「俺……」
「まだ無理はするな」
その時。
廊下から、足音が近づいてきた。
「先生! 早く来てください!」
先ほどの女性が、白衣を着た男を連れて戻ってくる。
医師らしき男は、ユウトの顔を覗き込んだ。
「優斗さん」
「後藤優斗さん」
「はい……」
「あの……ここは……」
「ここは病院です」
医師は落ち着いた声で言った。
「あなたは事故に巻き込まれて、意識を失っていたんです」
「病院……?」
「……事故?」
「そうよ!」
母親が、また目に涙を浮かべる。
「優斗、大丈夫?」
「どこか痛いところはない?」
「お母さん、落ち着いてください」
医師がやんわりと制止する。
「だって……」
ユウトは、混乱したまま口を開いた。
「俺……」
「昨日は、ウラジオ商会で仕事して……」
「そのあと、マヤさんと居酒屋に飲みに行って……」
「部屋に帰って、寝たはず……」
「……?」
周りの大人たちが、顔を見合わせた。
「優斗……」
母親が、不安そうに言う。
「何を言ってるの?」
「あなた、高校生でしょ?」
「優斗……!」
「えっ……」
高校生。
その言葉が、妙に遠く聞こえた。
「まぁまぁ」
医師が静かに言う。
「今のところ、検査では大きな異常は見られません」
「目覚めたばかりで、少し混乱しているのかもしれません」
「しばらく様子を見ましょう」
「えっ……」
「検査?」
ユウトは、ぼんやりと医師を見た。
「ゴルディアに病院はないはずじゃ……」
「それに……」
「なんで親父と母さんがここに……」
「ゴルディア?」
父親が眉をひそめる。
「お前……何を言ってるんだ……?」
その時。
廊下から、駆けてくる足音が聞こえた。
タッタッタッ。
「優斗!」
病室の扉が勢いよく開く。
「おじさん!」
「おばさん!」
「優斗が目覚めたって……!」
駆け込んできたのは、1人の少女だった。
ユウトは、息を呑んだ。
「えっ……」
「セレス?」
少女は目を見開き、すぐに首を横に振る。
「優斗!」
「私よ!」
「詩織よ!!」
「詩織……」
ユウトの声が震えた。
「なんで……」
「お前、ルイスに封印されたんじゃ……」
「よかった……!」
詩織は、泣きながらユウトを抱きしめた。
「目が覚めたのね……!」
その光景を見て、両親は何も言わずに病室を出ていく。
医師も、後を追うように部屋を出た。
扉が閉まる。
病室に、ユウトと詩織だけが残された。
「詩織……」
ユウトが声をかけようとした、その時。
詩織の唇が、ユウトの耳元へ近づいた。
「起きて、優斗……」
「え……?」
「ここに居ちゃダメよ」
囁くような声。
だが、その声は妙にはっきりと響いた。
「どういう……」
次の瞬間。
激しい光が、病室を包み込んだ。
「詩織?」
「優斗……」
詩織は、泣きそうな顔で笑った。
「またね」
「待てよ……」
ユウトは手を伸ばす。
「詩織!」
────────
「詩織ー!!!」
ユウトは、叫びながら目を覚ました。
「はぁ……」
「はぁ……」
荒い呼吸。
激しく鳴る心臓。
ユウトは、ゆっくりと辺りを見渡した。
黒いベッド。
黒で統一された部屋。
カーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。
いつもの部屋だった。
「夢……か……」
そう呟いた瞬間。
喉の渇きに気づいた。
「み、水……」
ユウトは、半ば無意識に手を前へ出す。
その瞬間。
「え……」
手が、淡く光っていた。
いや。
淡く、ではない。
はっきりと。
強く。
光っている。
(なんだ……)
(この光……)
次の瞬間。
頭上から、大量の水が滝のように流れ落ちた。
「わっ……!」
全身に、冷たい水が叩きつけられる。
ベッドも。
床も。
部屋も。
一瞬で水浸しになった。
「しょ、消去!」
ユウトは慌てて叫ぶ。
直後。
部屋中の水が、跡形もなく消えた。
「……」
ユウトは、濡れた髪を押さえながら固まる。
(どうなってるんだ……)
改めて、手を前へ出す。
今度は、慎重に。
詳細にイメージする。
ペットボトルに入った水。
無色透明。
冷たい飲み物。
蓋がついている。
手に持てる大きさ。
その瞬間。
ユウトの手の中に、ペットボトルが現れた。
「……」
今度は、イメージ通りだった。
ユウトは蓋を開け、水を口に含む。
冷たい水が喉を通る。
それだけで、少しだけ気が楽になった。
「そうだ……」
ユウトは、はっと顔を上げる。
「セレス」
急いで立ち上がり、部屋を出た。
隣の部屋の前に立つ。
コンコン。
「……」
返事はない。
コンコン。
「……」
それでも、返事はない。
ドンドン。
「はーい」
中から声が聞こえた。
それだけで。
ユウトは少しだけ安心した。
次の瞬間。
ドアが勢いよく開く。
ガッ。
「痛っ!」
「あっ、ごめん」
勢いよく開かれたドアが、ユウトの額にぶつかった。
セレスが、寝ぼけた顔でこちらを見る。
「朝からどうしたの?」
「セレス!」
「俺の様子が変なんだ!」
「……前から変だったけど?」
「違うって!」
「そうじゃなくて……!」
ユウトは濡れた前髪をかき上げる。
「とにかく、俺を見てくれ!」
「わ、分かったから落ち着いて!」
セレスは、少し呆れたように息を吐く。
そして。
ユウトを見つめた。
「……え?」
セレスの表情が変わる。
眠気が、一瞬で消えた。
「なんで…」
「セレス?」
ユウトの声に、セレスは答えない。
ただ、ユウトの体をじっと見ていた。
「な、なんだよ……」
「どうしたってんだよ……」
セレスは、ゆっくりと口を開いた。
「ユウト……」
「あなた……」
「スキルが覚醒しているわ」
「……え?」
「創造から」
セレスは、信じられないものを見るような目で言った。
「天地創造に……」
ここまで読んでいただきありがとうございます!
今回の話で、ユウトのスキルに大きな変化が起きました。
この覚醒が今後どのように物語へ関わっていくのか、見守っていただけると嬉しいです。
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