第134話:ドラン
ウラジオ商会入口。
マヤと一緒に外へ出たユウトは、ふと足を止めた。
「あれ?」
ドランの姿がなかった。
車は、正面に停まっている。
「どうしたんです?」
「いや、いつもならここで……」
「……ん?」
少し離れた場所に、ドランらしき男の姿が見えた。
誰かの車のボンネットを開けて、何やら作業をしている。
「あいつ……」
ユウトは少しだけ黙った。
「マヤさん、すいません」
「少しだけ、時間をもらえますか?」
「ええ」
「大丈夫ですよ」
マヤは、にこっと笑った。
ユウトは、ドランに気を遣わせないように、マヤと一緒に一度ビルの中へ戻った。
入口近くの椅子に腰を下ろす。
「優しいんですね」
マヤが口を開いた。
「優しいかは分かりませんけど……」
ユウトは外を見る。
「いい奴ですよ」
「あいつは……」
さっきのドランの姿を見て。
ユウトは、二人の恋を応援しようと思っていた。
「いいえ」
マヤは首を横に振る。
「二人ともです」
そう言って、笑顔を見せた。
「え?」
「俺も?」
よく分かっていないユウト。
「ふふっ」
マヤは小さく笑う。
「あっ」
「終わったみたいですね」
外を見ると、ドランが車の前に立っていた。
「行きましょうか」
2人は、再びビルの外へ出る。
その瞬間――
「ユウト様ああああっ!」
ドランが、大きく手を振りながら満面の笑みを見せた。
その顔には、汗が流れている。
「……」
「お疲れ様」
ユウトが、ドランに一声かけた。
あまりの珍しさに。
ドランでさえ、一瞬だけ戸惑った。
「フッ……」
ユウトは、意味深に笑う。
「マヤさんを頼む」
「かしこまりましたっ!」
ドランは、元気よく返事をした。
「すみません」
「お願いします」
マヤも丁寧に頭を下げ車に乗り込む。
その言葉を聞いて。
勝手に満足げな顔をして、車に乗るユウト。
だが。
分かっていない。
二人の恋など。
そもそも存在していないということを。
ドランが運転席に乗り込む。
向こう側で、1人の男が手を振っていた。
どうやら、先ほどの車の持ち主らしい。
ドランは、軽く会釈を返した。
その様子を見て、ユウトが口を開く。
「大丈夫だったのか?」
「はて?」
「何のことでしょう!」
「車の修理してたんだろ?」
「あぁ……」
「彼の車のエンジンが掛からないらしく」
「暇だったので見物に行ったんです」
ドランは、晴れやかに笑った。
「いやー」
「さっぱり分かりませんでしたわっ!」
「ハハハハハっ!」
「バルド商会から専門の業者が来るらしいので、大丈夫でしょう!」
「はぁああああ??」
(こいつ!)
(何やってたんだ!!)
「さっ、予定より遅れております!」
「行きますよ!」
なぜか少し困ったような顔で、ドランが言った。
(お前のせいだよ!!!)
車は宙に浮かび上がり、ユウトとマヤのアパートへと向かった。
こうして。
ユウトの長い長い1日は、ようやく終わった。
……ように思えた。
────────
「おい、おめー飲んでんのか?」
「飲んでますよ……」
「あんま飲みすぎんじゃねえぞ」
「どっちだよ!」
ユウトは、酒の入ったグラスを見つめた。
そして、心の中で呟く。
(なんで……)
(なんでこうなった……!)




