第122話:情報社会
翌日。
外の警報が鳴り響いた。
その音で、ユウトは目を覚ます。
けたたましい音。
街中に響く、モンスター襲来の警報。
「はぁ……」
「仕事……か……」
モンスター襲来の警報を、まるで目覚まし扱いするユウト。
ユウトの出勤時間は自由だ。
とりあえず行けばいい。
それだけだ。
それだけなのに――
足が重い。
別に、疲れているわけではない。
体調が悪いわけでもない。
ただ。
めんどくさい。
ただ、それだけだった。
来いと言われなくても、行く時はある。
だが。
来るように言われると、急にめんどくさくなる。
「……」
ユウトは、しばらく警報の音を聞いていた。
(みんな、毎日毎日すごいな……)
働く人を、素直に感心する。
尊敬もする。
自分には無理だ。
少なくとも、毎日は無理だ。
「……行くか」
ユウトは、ゆっくりと起き上がった。
身支度を済ませ、ドアを開けて外に出る。
廊下に出ると、ふと向かいの部屋のドアが目に入った。
マヤの部屋。
ユウトは、そのドアを少しだけ見つめた。
「……」
マヤは、今も休んでいる。
ちゃんと休めているはずだ。
昨日までなら、無理にでも仕事に行こうとしていたかもしれない。
でも、今は違う。
そう思うと、少しだけ胸が軽くなり口元が緩んだ。
(よし……)
(行くか!)
ほんの少しだけ。
勇気を貰った気がした。
ユウトはアパートを出た。
鳴り響いていた警報はいつの間にか止まっていた。
静かな日常。
いや、ゴルディアの街では警報音も日常の一部となっている。
慌てるものは居ない。
その姿を目視できる頃には
魔物が消滅しているのだから。
バルド商会までは徒歩で出勤だ。
セレスも、そうしている。
おかげで運転手の仕事が減り、アメリが嘆いていたらしい。
その代わり、今では他の社員に運転手が付くようになったそうだ。
(どうせなら、俺に付けてくれれば良かったのに……)
そんなことを考えながら、ユウトは渋々歩いた。
歩く。
歩く。
仕事へ向かう。
ただそれだけのことが、こんなにも面倒くさい。
それでも。
足は止まらなかった。
──────────
そのころ。
デウス商会。
「また隣の街で設備が破壊されました」
ゼルディアの報告が、静かな部屋に響く。
「魔物ではなく、人間による被害です」
「……愚かな」
ルイスは、短く呟いた。
その声に怒りはない。
ただ、失望だけがあった。
「もういいです」
「その街の通信設備は無しだ」
ルイスは淡々と言った。
ゴルディア近隣の村より先。
そこには、未だにシオリの化学が届いていない地域が多い。
見たこともない設備。
人知を超えた道具。
遠くの街と声を繋ぐ通信塔。
それらは、人々にとって便利なものではなかった。
理解できないもの。
得体の知れないもの。
恐怖の象徴だった。
だから、壊した。
分からないから壊す。
知ろうともせずに。
ルイスは目を細めた。
人間とは、いつもそうだ。
己の理解を超えたものを恐れる。
恐れたものを遠ざける。
遠ざけられないものは、壊そうとする。
「……」
これから来る情報社会。
通信設備は、その要となる。
そして、情報は武器である。
彼らは自らの過ちで、その武器を放棄したのだ。
自ら暗闇を選んだ。
そして愚かなことに。
怒りの矛先は、武器を与えた者と、武器を持つ者へ向く。
持たざる者は、持つ者を恨む。
武器を持つものは独占する。
そして人々は、再び争い、殺し合う。
それでも彼らは言うのだ。
悪いのは、自分たちではないと。
「……本当に」
ルイスは小さく呟いた。
「人間は愚かだ…」
その声は、ひどく静かだった。




