第121話:呼吸
ドランの運転で、アパートまで送ってもらったユウト。
「はぁ……」
部屋の前で、深いため息をつく。
(疲れた……)
──────────
「ユウト様ぁっ!」
「この先、右に曲がりますっ!」
「なんでだよ!」
「空なんだから、斜めに進んで行けるだろ!」
「景色が良いんです!」
「俺は早く帰りたいんだよ!!」
──────────
(あれが毎回続くのか……)
ユウトは、げんなりしながら鍵を取り出した。
ガチャ。
扉を開ける。
セレスからの連絡で、マヤは自分の部屋に移ったと知らされていた。
部屋に入る。
「ん?」
「……」
部屋の中に、かすかに香りが残っていた。
花の香りではない。
料理の香りでもない。
何の匂いなのか、うまく言葉にできない。
けれど。
(いい匂い……)
ユウトは、無言でベッドを見つめた。
(ここに……)
そこまで考えた瞬間。
「ハッ……」
ユウトは我に返り、勢いよく首を振った。
(違う)
(そういうつもりじゃない)
(ただ、誰かがここにいた気配が残ってるだけで……)
そう言い訳している時点で、もう駄目な気がした。
ユウトは手を前に向ける。
そして、ベッドを一度消去した。
続けて、新品の黒いベッドを創造する。
「……」
なんとも言えない虚無感が残った。
だが。
あのまま同じベッドを使えば、申し訳なさからマヤに合わせる顔がない。
いや。
これはマヤへの申し訳なさだけではない。
自分自身のためでもある。
おそらく、あのベッドでは変に意識してしまい眠れない。
そう思った。
それでも。
部屋に残った香りに、少しだけ意識が向いてしまう。
本人はただ、呼吸しているだけのつもりだった。
だが――
クンクン。
クンクンクン。
部屋の中を移動しながら、呼吸をするユウト。
クンクンクン。
クン。
「何してんの……」
「ぎゃああああ!」
ユウトは飛び上がった。
振り返ると、セレスが呆れた顔で立っていた。
「お、お前……」
「いつから……」
「ベッドを消して、出した辺りからよ」
見られていた。
全部。
ベッドを消したところも。
新品を出したところも。
そして。
呼吸している姿も。
「違う」
ユウトは即座に言った。
「まだ何も言ってないわ」
「違うんだ!」
「だから、まだ何も言ってないって」
セレスの冷たい視線が突き刺さる。
「…」
ユウトは静かに窓を開ける。
「と、ところで…」
「マヤさんの容態は?」
セレスはため息をつきながら、腕を組む。
「落ち着いてるわ」
「ユウトが彼女の姿で商品開発室に行った事を伝えた時は驚いてたわね」
「けど気にしてなかったわ」
「その後、室長が解雇されたことも伝えたわよ」
「肩の荷がおりたような」
「安心した顔だったわ」
「そっか……」
ユウトは胸を撫で下ろした。
「セレス…」
「ありがとう」
「うん」
優しく微笑むセレス
「ユウトも今日はゆっくり休むといいわ」
「明日はうちの仕事があるからね!」
「…」
「は?」




