第120話:責任の取り方とは
応接室。
ユウト、レイヴン、ウラジオの3人。
認識阻害を解いて、ユウトは自分の姿に戻っていた。
「ユウト殿、ありがとうございました!」
ウラジオが深々と頭を下げる。
その隣で、レイヴンも同じように頭を下げていた。
「そんな……」
「頭を上げてください」
ユウトは手を振りながら慌てた。
「元はと言えば、俺の考えたハンバーガーが未完成だったのが原因ですし」
「俺にも責任があります」
その言葉を聞いた瞬間。
ウラジオが、ゆっくりと頭を上げた。
「ほう……」
「責任……ですか……」
ウラジオの目が、鋭く光る。
「レイヴン」
ウラジオがレイヴンに視線を向ける。
それだけで、何かを察したのか。
「かしこまりました」
レイヴンは短く返事をし、すぐに書類をウラジオへ手渡した。
「聞くところによりますと……」
ウラジオは、にこやかに書類を開く。
「ユウト殿は、バルド商会でアルバイトをしているそうですな?」
「え、えぇ、まぁ……」
ユウトは嫌な予感を覚えながら頷いた。
「最近は休んでますけど……」
「あの……まさか……」
「これは、最近聞いた話ですが……」
ウラジオは、わざとらしく咳払いをする。
「社会人には、社会人の責任の取り方があるようです」
「それ、さっき室長が言ってたヤツ!!」
ユウトは思わず突っ込んだ。
「ご安心を」
ウラジオは笑顔のまま続ける。
「週に1度、商品開発室へ出勤していただき」
「新しい室長をサポートしてくれるだけで良いのです」
「報酬も、今まで通りで結構」
「専属の運転手もお付けしましょう」
普通に考えれば、高待遇すぎる。
だが――
無理だ。
バルド商会は週2回の出勤だった。
そこに、ウラジオ商会で1日。
週3で仕事だと!?
1年で156日。
半年近く働く。
ユウトにとっては、もはや重労働である。
「さぁ、さぁ!」
ウラジオは契約書を手に、悪い笑顔を向けてくる。
先ほどまでの威厳ある怒りとは、また別の恐怖があった。
「うっ……」
ユウトの顔が引きつる。
「さぁ、さぁ!」
「うぅっ……」
数秒前まで頭を下げていた男とは到底思えない。
報酬あり。
運転手あり。
週1回。
条件だけ見れば、断る理由が見つからない。
ただ一つ。
働きたくないという、ユウトの本心を除けば。
結局、ユウトはウラジオの押しに負けて契約書にサインした。
「……」
「いやぁー、これからもよろしくお願いします」
ウラジオは満面の笑みで契約書を見つめる。
「ユウト"君"」
「君!?」
呼び方が変わった。
完全に雇用する側の顔だった。
転んでもただでは起きない。
商人としてのしたたかさを見た気がした。
「ところで……」
ユウトは、ふと気になって尋ねる。
「新しい室長って……?」
「んん? ……フフフっ」
ウラジオは、意味深に笑った。
何やら企んでいる。
そういう笑いだった。
──────────
ウラジオ商会前。
ユウトは考えながら歩いていた。
『ではユウト殿、また5日後に』
あのウラジオの悪そうな笑顔。
絶対に何か企んでいる顔だった。
(まさか……!)
ユウトは慌てて、契約書の複製を確認する。
「……」
契約の内容に不備はない。
改ざんされたところもない。
勤務日数。
報酬。
業務内容。
どれも、ウラジオが説明した通りだった。
(考えすぎ……か?)
そう思った、その時――
「ユウト様ぁあっ!」
「お待ちしておりましたっ!!」
大きな声が響いた。
周囲の人々が、一斉に振り返る。
ユウトも、恐る恐る声の方を見る。
そこにいたのは――
ドランだった。
背筋を伸ばし、目を輝かせ、両腕を大きく振っている。
「えっ」
ユウトは固まった。
「専属の運転手って……」
「お前かよ!!」
「光栄でありますっ!」
ドランは満面の笑みで叫んだ。
ユウトは空を見上げた。
あの悪そうな笑顔。
ウラジオは、契約書には何も仕込んでいなかった。
だが――
いや……
なんでもない。
「ささっ、ユウト様っ」
ドランが両手を広げる。
「え?」
「再会のハグです」
「しねえよ!!」
「冗談です」
ドランは真顔で言った。
「車まで抱っこして運びます」
「普通に歩くわ!!!」
ユウトの叫びが、ウラジオ商会前に響き渡った。
周囲の人々が、また振り返る。
ドランは胸を張り、どこか誇らしげだった。
ユウトは顔を覆った。
「はぁ…」
全てを諦めたように息を吐く。
「今日は空のルートで頼む」
「了解しましたっ」
こうしてユウトの運転手付き高待遇アルバイトがスタートしたのであった。




