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最強の創造スキルを手に入れた俺、異世界で大儲けできると思ったら現代科学より上でした  作者: おりこー3


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第119話:責任とは

商品開発室を目指して歩くユウト。


いや、マヤ。


「えっと……ここを右か」


天井の案内板を見上げる。


(それにしても……)


(本当にこれで大丈夫なのか?)


マヤの姿で潜入。


ユウトの発案ではない。


セレスの指示だ。


(うーん……)


窓にうっすら反射する自分の姿。


いや。


マヤの姿。


(後でマヤさんに謝っておこう)


解決のためとはいえ。


自分の姿を勝手に模倣される。


マヤの気持ちを考えると、どうしても引っかかるものがあった。


その時――


「おはよう、マヤさん」


後ろから声をかけられた。


「あ、えっと……」


「ども……」


言ってから、すぐに気づく。


「じゃなくて……」


「おはようございます」


「ハハハっ」


声をかけてきた男性職員は、軽く笑った。


「では……」


ユウトは、その場をそそくさと離れる。


背後では、きょとんとする男の姿があった。


──────────


応接室。


モニターには、マヤの胸ポケットから撮影された映像がリアルタイムで映し出されていた。


「……」


「大丈夫でしょうか」


モニターを見つめながら、レイヴンが口を開いた。


「今はユウト殿を信じるしかない……」


ウラジオもまた、モニターに釘付けになっていた。


──────────


しばらく案内板の指示通りに歩き、ユウトは先へ進む。


「マヤさん、おはよう!」


また声をかけられた。


「お、おはようございます」


「やあ、マヤさん。おはよう!」


「おはようございます」


すれ違う人たちが、次々と挨拶をしてくれる。


受付嬢だった頃の名残なのか。


それとも、マヤ自身の人柄なのか。


みんな、自然に声をかけていた。


(マヤさん……)


みんなに慕われている。


そんなマヤを、あんな目に遭わせた商品開発室。


そう思うと――


「……」


ユウトの目が、静かに細くなる。


視線の先。


そこには、商品開発室の札があった。


(ここか……)


扉に近づく。


すると、中から声が聞こえてきた。


内容までは分からない。


だが、怒号にも近い声だった。


ユウトは扉に手をかける。


だが――


(入りにくい……)


扉を開けた瞬間。


確実に、あの怒号の矛先はこちらへ向く。


そう思うと、指先が少しだけ止まった。


それでも。


昨日のマヤの弱々しい姿が、脳裏に浮かぶ。


青白い顔。


力のない声。


「大丈夫です」と言いながら、まったく大丈夫ではなかった姿。


もう、あんな弱りきったマヤを見たくない。


ユウトは小さく息を吐いた。


そして、扉を開けた。


「……」


怒号が止んだ。


それと同時に、全員の視線が扉へ向く。


「あの……」


ユウトは、マヤの声で言った。


「遅れてすいません」


次の瞬間。


「何やってたんだい! マヤ!!」


ミチの怒鳴り声が飛んだ。


「すいません」


ユウトは頭を下げる。


「ちょっと身体の調子が悪くて……」


「そんなの関係あるかい!」


ミチは一歩前に出る。


「体調管理も仕事のうちだよ!!」


「自分の体調もろくに管理できないなんて!」


「みんな時間通りに来て仕事してんだよ!」


「言っただろ?」


「あたし達は仲間だって!」


「仲間を差し置いて、自分は遅れてくる」


「あんた、無責任だと思わないのかい?」


「……」


ユウトは黙って聞いていた。


胸の奥が、冷えていく。


これを、マヤは昨日まで一人で受けていたのか。


助けてと言うこともできず。


大丈夫ですと笑いながら。


「さっさと仕事しな!」


ミチは吐き捨てるように言った。


「遅れた分は、残ってでもやってもらうからね!!」


「え?」


思わず声が漏れた。


「なんだい!」


ミチの目が鋭くなる。


「あたしに逆らうってのかい?」


「遅刻した、あんたが悪いんじゃないか」


「いいかい?」


ミチは指を突きつける。


「仕事には責任ってもんが乗っかってくるんだ」


「でも……」


「“でも”なんだい!」


ミチの声が、さらに大きくなる。


「社会人には、社会人の責任の取り方があるんだよ!」


「ほんとに無責任なんだから」


「でも、それって……」


「まだ言うのかい!」


ミチは作業台を叩いた。


「あたしゃねぇ!」


「先代の頃から、ウラジオ商会に尽くしてきたんだ!!」


「あたしの言うことに逆らうってのかい!」


その言葉に、周囲の職員は下を向く。


誰も何も言わない。


逆らえない。


逆らわない。


ただ一人を除いて。


「……え?」


ユウトは、思わず声を漏らした。


(そんなはずないだろ……)


(だって、ウラジオは……)


「なんだい!」


ミチが睨む。


「まだ何か言うのかい!」


「遅刻した挙句、他の人の仕事の邪魔まで――」


その時だった。


「もういい!!」


怒りに満ちた男の声が、商品開発室に響き渡った。


ユウトの背後。


扉の向こうから現れた声。


その声を聞いた瞬間、職員たちが震えた。


ミチの顔も引き攣る。


「それ以上、口を開かないでください」


ウラジオだった。


ゆっくりと。


だが、確かな足取りで。


一歩ずつ、商品開発室へ入ってくる。


その表情は、普段の穏やかな商人のものではなかった。


怒りを押し殺した、経営者の顔だった。


「商品開発室、室長」


ウラジオは静かに告げる。


「確か、ミチでしたね」


「ウ、ウラジオ様……」


ミチの声が震える。


「あなたには、辞めていただきます」


「な、なぜです!」


ミチは慌てて声を上げる。


「ウラジオ様!」


「全て見させていただきました」


ウラジオの声は冷たかった。


「そんな……」


ミチは顔を青ざめさせる。


「あたしは、この子を教育していただけで……」


「そりゃ、少し強く言ったかもしれませんが……」


「あれは教育ではない!」


ウラジオの声が、室内を打った。


職員たちは、誰一人として動けなかった。


「暴言」


「過度な残業の強要」


ウラジオは一つずつ、静かに言葉を置いた。


「どれ一つとして、見過ごせるものではありません」


「これ以上、話すことはありません」


「後日、必要書類を届けさせます」


「ご退出を!」


「そんな!」


ミチは縋るように言う。


「あたしは長年、この商会に……」


「ご退出を!!」


ウラジオの声が、さらに強くなった。


ミチはびくりと身体を震わせる。


そして、弱々しく歩き出した。


その背中は、先ほどまでの威圧感が嘘のように小さかった。


ウラジオが、静かに声をかける。


「ああ、一つ」


ミチの足が止まる。


ウラジオが口を開く。


「私は孤児院出身で、この商会は私が立ち上げたものです」


「先代など、存在しません」


商品開発室の空気が、完全に凍りついた。


ミチの顔から、血の気が引いていく。


「……」


誰も声を出せなかった。


ウラジオは、もうミチを見ていなかった。


ただ、商品開発室全体を見渡す。


その時、ウラジオの視線が机の上で止まった。


「ん? これは?」


机の上には、一つにまとめられた書類の束があった。


表紙には、こう書かれている。


“ウラジオバーガー改善案”


「そ、それは……」


一人の職員が、おそるおそる口を開いた。


「マヤさんが、初日に提出してくれた物です」


「そうですか」


ウラジオは静かに答え、書類の束を開いた。


しばらく目を通す。


紙をめくる音だけが、商品開発室に響いた。


「……」


やがて、ウラジオは書類を閉じた。


「皆さんにも、話があります」


その声に、職員たちが一斉に背筋を伸ばした。


「昨日のマヤの様子に、気づいていた者はいますか?」


「……」


誰も答えない。


だが、誰も否定もしなかった。


「気づいていたのですね」


ウラジオの声が、さらに低くなる。


「気づいていながら、止めなかった」


「止められなかった者もいるでしょう」


「声を上げれば、自分が標的になる」


「そう思った者もいるでしょう」


職員たちは、下を向いたままだった。


「ですが」


ウラジオは続ける。


「沈黙は、時に加担になります」


「今回の件、皆さんにも責任があります」


そして、ウラジオはマヤの胸元にある小さな記録装置へ視線を落とした。


「そして、レイヴン」


──────────


応接室。


モニター越しにその声を聞いたレイヴンが、びくりと肩を震わせる。


『お前もだ』


「……」


レイヴンは、静かに頭を下げた。


──────────


商品開発室。


ウラジオは、職員たちへ視線を戻した。


「そして……」


「私にも、責任があります」


その言葉に、職員たちがわずかに顔を上げた。


「商品開発室の体制を見直します」


「残業管理」


「相談窓口」


「責任者の権限」


「すべて、改めます」


ウラジオは静かに、しかしはっきりと言った。


「二度と、同じことを起こさないために」


「新しい室長は、本日より5日以内に手配します」


商品開発室は、静まり返っていた。


「それまで、商品開発室は責任者不在のため、一切の業務を禁じます!」


職員たちは、誰も何も言えなかった。


ユウトは黙ってその場に立っていた。


胸の奥で、何かが静かに燃えていた。


怒りだけではない。


後悔だけでもない。


それはたぶん。


もう見て見ぬふりはしないという、決意だった。

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