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最強の創造スキルを手に入れた俺、異世界で大儲けできると思ったら現代科学より上でした  作者: おりこー3


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第115話:帰り道の不審者

帰り道。


初めて飲んだ酒。


久しぶりにした、アニメの話。


シュウイチの笑い声。


ユウトは、夜風に当たりながら小さく呟いた。


「いい奴だったな……」


気分は良かった。


かなり良かった。


だが――


真っ直ぐ歩けない。


自然と、少しだけ斜めに進んでしまう。


テレビで見たような千鳥足ではない。


フラフラするわけでもない。


吐きそうな感じもない。


意識もはっきりしている。


ただ。


地面が、ほんの少しだけ傾いているような気がした。


「……」


いつもと違う。


それは、店で椅子から立ち上がった瞬間に分かった。


足元が少し軽い。


頭の奥が少しだけふわっとする。


体が温かい。


これが、酔うということなのかもしれない。


帰り道が遠回りなのも気づいていた。


だが――


酔っ払ったことを、シュウイチにバレたくなかった。


だから、あえてシュウイチと逆方向に帰った。


「……」


(バレてないよな……)


(たぶん……)


繁華街から一本裏へ入る。


人通りの少ない道。


昼間なら何でもない場所だろう。


だが、夜になると雰囲気が変わる。


店の明かりは少ない。


建物の窓明かりもまばら。


風の音と、自分の足音だけがやけに大きく聞こえる。


(この道なら……)


(シュウイチと鉢合わせることもないだろう……)


辺りは真っ暗だった。


もう夜も遅い。


静かな道を、ユウトはゆっくり歩く。


しばらく歩いていると――


少し前を歩く人影が見えた。


「うわっ……」


思わず声が漏れる。


(この場合は……)


(相手の速さに合わせて、一定の距離を保つか……)


それが一番自然。


近づきすぎない。


離れすぎない。


変に追い抜こうとしない。


ユウトなりに、かなり冷静な判断だった。


しかし――


人影が、徐々に近づいていく。


(遅っ!!)


(歩くの遅っ!!)


酔っているユウトが、追いついてしまった。


しかも。


(女の人か……)


暗い。


人通りが少ない。


静かな夜道。


そんな場所で、後ろから男が近づく。


それだけで、相手に恐怖感を与えてしまう。


ユウトは一瞬で青ざめた。


(頼む!)


(次、曲がるなよ!!)


だが。


前を歩く女性は、ユウトの願いとは裏腹に、角を曲がった。


(なんでだよおおお!)


理不尽なリアクション。


もちろん、女性は何も悪くない。


ただ道を曲がっただけである。


(どうする……)


(俺が真っ直ぐ行くか?)


いや。


(無理だ)


(さすがに今の俺に、そんな余裕はない……)


酔っている。


帰りたい。


ユウトは、渋々女性と同じ方向へ曲がった。


コツ。


コツ。


コツ。


ユウトの足音に気づいたのか、女性がちらっと振り返った。


そして、そのまま歩みを止めることなく進む。


「……」


(終わった……)


(今、絶対見られた……)


(ストーカーと思われたらどうする……)


気のせいか。


それとも本当にそうなのか。


女性の歩みが、少しだけ早まった気がした。


(俺はストーカーじゃないぞ!)


(このまま少し歩けばアパートだ)


(もうすぐいなくなるから安心してくれ)


心の中で必死に弁明する。


もちろん、相手には届かない。


ユウトは一定の速度で歩く。


不自然に止まるのも変。


急に道を変えるのも変。


追い抜くのも変。


結果。


ますます女性との距離が近くなる。


(ヒールって大変なんだな……)


そんなことを思う余裕は、少しだけあった。


だが、ゴールはすぐそこだった。


アパート。


自分の住む場所。


あそこに入れば終わる。


なんなら、アパートに入るところを見せつけて、自分はただ帰宅しただけの人間だと証明したい。


自分は不審者ではない。


ストーカーでもない。


ただの住人である。


ところが――


女性が、アパートへ入っていった。


「……」


(どうしてだよおおおおお!)


ユウトは、心の中で絶叫した。


(このまま俺が入ったら、ますます怪しいやつ!)


同じ道を曲がり。


同じ方向へ歩き。


同じアパートへ入る。


客観的に見れば。


完全に後をつけている。


「……」


ユウトはアパートの入口前で立ち止まった。


入れない。


入れば怪しい。


だが、入らないのも怪しい。


何より。


ここは自分の家だ。


帰らないわけにもいかない。


(どうする……)


(時間を置くか?)


(いや、入口前で立ってる方が怪しい)


(じゃあ一周してくるか?)


(酔ってるのに?)


ユウトは真剣に悩んだ。


その時。


アパートの入口の奥から、女性の声がした。


「……あの」


「ひぃっ!」


ユウトは変な声を出した。


入口の中から、女性がこちらを見ていた。


暗がりでよく見えなかった顔が、建物の明かりに照らされる。


「……」


「……」


マヤだった。


仕事帰りの。


明らかに疲れ切った。


マヤだった。


「……ども」


ユウトは、ぎこちなく頭を下げた。


「えっと……」


「偶然です」


言った瞬間、自分でも思った。


言い訳として弱すぎる。


「いや、本当に偶然で」


「同じ方向だったというか」


「同じアパートだから当然というか」


「でも後をつけたわけじゃなくて」


「むしろ、俺も困って」


「曲がるなって思ってたら曲がって」


「アパートに入るなって思ってたら入って」


「いや、入るなっていうのは変な意味じゃなくて」


自分でも何を言ってるのか分からない。


「……」


マヤは無言で見ていた。


疲れた顔で。


ただ、じっと。


「……すいません」


ユウトは頭を下げた。


「俺、今日ちょっと酒飲んでて……」


「……お酒?」


マヤが少しだけ目を細める。


「はい」


「初めて飲んで」


「たぶん、少し酔ってます」


「……」


マヤは、ユウトを見た。


顔。


足元。


姿勢。


そしてまた顔。


「確かに……」


「少し、ふわふわしてますね」


「見て分かるんですか?」


「分かります」


即答だった。


ユウトは少しだけショックを受けた。


(シュウイチにもバレてたかもしれない……)


「……マヤさんは」


ユウトは、ふと気づく。


「仕事帰りですか?」


「はい……」


マヤは小さく頷いた。


その声は、いつもの受付嬢としての明るさとは違っていた。


明らかに疲れている。


肩も落ちている。


足取りも重い。


ヒールのせいだけではなさそうだった。


「遅いですね」


「……残業で」


「残業……」


「……」


ユウトは言葉を失った。


さっきまでの自分の不審者問題が、一瞬で薄れる。


こんな遅くまで。


「大丈夫ですか?」


「はい」


マヤはすぐに答えた。


「大丈夫です」


だが、その声は大丈夫ではなかった。


大丈夫という言葉だけが、先に出ているように聞こえた。


「……」


ユウトは、セレスの言葉を思い出した。


食べて。


寝て。


働く。


その不安定な積み木。


どれか一つでも欠けると、心が崩れる。


目の前のマヤは。


明らかに崩れかけていた。


「……飯、食べました?」


「……」


マヤは答えなかった。


答えないことが、答えだった。


「じゃあ……」


ユウトは少しだけ迷う。


迷ったが、言った。


「何か食べますか?」


「え?」


「いや、部屋に来いとかじゃなくて」


ユウトは慌てて手を振る。


「部屋の前で渡します」


「絶対にそれ以上はしません」


マヤが、少しだけ笑った。


ほんの少し。


本当に、わずかに。


だが、さっきまでより表情が柔らかくなった。


「……じゃあ」


マヤは小さく言った。


「お願いします……」


「はい」


ユウトは頷いた。


それから二人は、同じアパートの階段を上る。


距離は少し離れている。


近すぎると気まずい。


遠すぎても不自然。


その微妙な距離を、ユウトは必死に保った。


酔っているのに。


やけに神経を使う。


そう思いながらも。


ユウトは少しだけ思った。


外に出てよかった、と。


部屋でゴロゴロしていたら、気づかなかった。


夜道に出たから、マヤの疲れた顔に気づけた。


誰かに言われたわけじゃない。


自分で外に出た。


その結果。


誰かの積み木が崩れかけていることに、少しだけ気づけた。


それはたぶん。


転生前の自分には、できなかったことだった。

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