第111話:やり甲斐
そのころ。
ウラジオ商会。
商品開発室。
「だめだつってんだろ!」
「ヒィィィ!」
「あたしゃ中途半端が一番嫌いなんだ!」
ミチの怒号が、商品開発室に響き渡る。
「みんな残業してんのに、自分だけ帰るつもりかい?」
「けど、私の分の仕事は終わってますし……」
「だからなんだってんだい」
ミチは、ぎろりとマヤを睨んだ。
「いいかい?」
「仕事ってのは、チームワークが必要なんだよ」
「仕事がないなら探しな!」
「でも……」
「なんだい!」
ミチの声が、一段と大きくなる。
「あたしゃ先代の頃から、この商会に尽くしてきたんだ!」
「あたしの言うことが間違ってるってのかい?」
「いえ……」
マヤは小さく首を振った。
「残業が許されてんのは22時までだ!」
「くだらないこと言って時間を無駄にするんじゃないよ!」
「はい……」
「声が小さい!」
「は、はい!!」
それから数時間、マヤの残業が続いた。
ある時は、お茶を用意し。
ある時は、床に散らばったゴミを掃除し。
ある時は、室長の肩を揉み。
本来の包み紙の改良とは、関係あるのかないのか分からない仕事が続いていく。
帰りたい。
足が痛い。
頭もぼんやりする。
でも、ここで帰りたいと言ったら。
また怒られる。
マヤは何も言えなかった。
気がつくと、時刻は22時――
「マヤ」
「は、はい!」
ミチが腕を組み、マヤを見た。
「あんた、よく頑張ったね」
「……え?」
「あんたは昔のあたしにそっくりだ」
「……は?」
「ついつい厳しくしちまった」
「けど、あんたなら耐えられると思っていたよ」
「室長……」
「あたし達はチームだ!」
「仲間だ!」
「仲間……」
「そうだよ!」
「覚えておきな!」
「あたしゃ仲間のことは絶対に見捨てない!」
「室長……!」
その言葉に、マヤの目は揺らいだ。
頑張れば褒めてもらえる。
認めてもらえる。
必要としてもらえる。
疲れているはずなのに。
帰りたかったはずなのに。
胸の奥が、少しだけ温かくなる。
「これが……やり甲斐……」
「そうだよ!」
ミチは満足そうに頷いた。
「受付で愛想振りまいてるだけじゃ得られないだろ」
「これが仕事の楽しさだよ」
「はい! 室長!」
「あたしのことはミチって呼びな!」
「仲間なんだから当然だろ」
「ありがとうございます! ミチさん!」
マヤは、笑顔で頭を下げた。
嬉しかった。
あの厳しい室長が認めてくれた。
本当の仲間を得た気がした。
けれど。
アパートへ帰る足取りは、ひどく重かった。




