第11話:日常に溶け込む非日常
「ちょっと外の様子見てくるわ〜」
ロイドが店の人に一言伝え俺たちは外に出た。
警報は、まだ鳴り続けている。
耳に刺さるような高音。
街の壁面表示は、すべて赤に染まっている。
(……物騒だな)
通りには人が出ている。
だが、混乱はしていない。
普通に歩いてる人もいた。
むしろ――
(慣れてるな)
誰もが空を見上げていた。
ユウトも視線を上げる。
その瞬間。
「――あれか」
ロイドが空を見ながら呟く。
高い位置に、黒い影。
翼を持った存在が旋回している。
(……鳥だ!!!でも-)
明らかに異質。
金属のような光沢。
不自然な形状。
そして――大きい。
「なんだ、また飛行型か」
ロイドは気軽に言う。
緊張はない。
そのとき。
街の上空に―― 、光が走った。
一瞬。
本当に、それだけだった。
一直線の光。
迷いなく、空の影を貫く。
次の瞬間。
モンスターが弾けた。
(……はあああ?)
何かが飛んだ。
当たった。
終わった。
それだけ。
残骸が煙を上げて落ちていく。
だが――
地面に落ちる前に、別の装置が動く。
捕捉。
回収。
処理。
すべてが自動。
(早すぎるだろ、なんだよこれ!!)
静寂が戻り、警報が止まる。
赤かった表示が通常に戻る。
まるで――何もなかったかのように。
周囲の人間も、すぐに視線を外す。
すぐに日常へ戻っていく。
(マジかよ)
ユウトは空を見たまま、しばらく動けなかった。
「こんなもんだ」
ロイドが言う。
軽い口調だった。
「……あれ、何なんですか?」
ユウトは視線を上げたまま聞く。
さっきまでそこにいた存在は、もうない。
「なんだ、知らねえのか?魔物だよ」
ロイドはあっさり答える。
「飛行タイプのやつ」
「え…?魔物……?」
言葉は理解できる。
だが――
(いやいやいや、魔物ってアレだよな?)
(ゲームとか漫画とかで人間を襲ってくる…)
「危なくないんですか?」
「そりゃ、まあ…危ねえよ」
ロイドは肩をすくめる。
「放っときゃ降りてくるし」
「街の外じゃ人を襲うし」
「でもまあ、街の中にいりゃ大丈夫だよ」
(……確かに)
戦闘ですらない。
ただの処理。
「すごいですね」
「そうだな」
ロイドは軽く笑う。
「俺らの出番はねえよ」
何気ない一言。
だが、どこか寂しげな笑みだった。
(“俺ら”?)
一瞬だけ引っかかる。
ユウトが視線を向けると、ロイドは肩をすくめた。
「昔は冒険者が居て、この手の魔物はそいつらの仕事だったんだけどな」
軽い口調で言う。
「今はご覧の通りってわけだ」
顎で空を示す。
そこにはもう、何もない。
「科学技術様々ってやつだな」
(……なるほどな)
妙に納得する。
この街に来てから、剣や鎧の人間は見たことがない。
代わりにあるのは、機械と装置ばかりだ。
(そういうことか)
ロイドは気にした様子もなく続ける。
「さて、飯の続きにするか!」
「そうですね」
ユウトは息を吐く。
さっきの出来事が嘘のようだった。
(……いや)
嘘じゃない。
(これがこの街の人にとって普通ってことか)
(まるで日本人にとっての小さな地震。)
(でも、いくら科学が発展してもいずれは…)
二人で店に戻る。
街はすでに、何もなかったかのように動いていた。
人が歩き、音が戻る。
日常が続いている。
(とんでもないな、この街)
ユウトは思う。
(いや、待てよ……)
(村からこの街への道中、俺――危なかったんじゃないか?)
ユウトの顔に、じわりと汗が滲んだ。




