第106話:人生は突然です。
翌日。
ウラジオ商会。
商品開発室。
そこには、マヤの姿があった。
「受付のマヤです」
「よろしくお願いします」
マヤは、緊張した面持ちで頭を下げた。
昨日。
突然、ウラジオ様に見込まれた。
突然、商品開発室の手伝いを命じられた。
そして今日。
受付嬢だった私は、なぜか商品開発室にいます。
お父さん、お母さん。
人生は突然です。
「フン」
目の前の女性が、鼻を鳴らした。
「あたしゃあ、ミチってんだ」
「一応、この部屋の頭張ってるもんだよ」
年齢はそれなりに上。
小柄。
だが、目つきは鋭い。
周囲の職人たちが自然と背筋を伸ばしている。
この人が、商品開発室の責任者。
「いいかい?」
ミチはマヤを睨むように見た。
「一言でも泣き言ほざいてみな?」
「あたしゃ、許さないよ」
「……」
マヤは固まった。
「返事は!?」
「は、はい!」
「声が小さい!」
「はいっ!」
「よし」
ミチは満足そうに頷いた。
「知ってると思うが」
「あんたがやるのは、包み紙の改良だよ」
「昨日、あんたが言ったんだろ?」
「ソースがこぼれるだの」
「持ちにくいだの」
「は、はい……」
「言ったからには責任を取りな」
「さっさと案を考えな!」
ミチが作業台を指差す。
「あのぉ……」
「なんだい!」
ミチが即座に睨む。
「ハッキリ喋りな!!」
「は、はい!」
マヤは慌てて背筋を伸ばした。
「包み紙を考えてきました!」
「……は?」
商品開発室の空気が止まった。
──────────
一方その頃。
ユウトは…
商業ギルドの行列の中にいた。
「寝坊した……」
死んだ目で呟く。
前を見る。
人。
人。
人。
後ろを見る。
人。
人。
人。
どこを見ても、人。
(セレスめ……)
(起こしてくれてもいいだろ……)
(先に行きやがって……!)
昨日の決算。
そして今日の支払い。
二日連続の商業ギルド。
朝から並ぶという、ユウトにとって最悪に近い行為。
「それにしても……」
ユウトは、前後に続く行列を見た。
(この行列の全員が支払い待ちか……)
商人たち。
店主たち。
それぞれ鞄や袋を抱えている。
その中には、おそらく金が入っている。
決算後の支払い。
つまり。
大金。
(大金を持ち歩いた集団が、野ざらしにされる)
(誰も何も言わないのか?)
ユウトは眉をひそめた。
この街は治安が悪いわけではない。
だが、だからといって安全とは限らない。
これだけの人数が、同じ日に、同じ場所に、金を持って集まる。
どう考えても危ない。
(しかも、待ち時間が長い)
(狙う側からしたら、選び放題じゃないか?)
ユウトは周囲を見渡した。
行列の横を通り過ぎる人。
遠巻きに眺める人。
荷物を運ぶ人。
怪しくない人まで怪しく見えてくる。
「……」
ユウトは少しだけ緊張した。
そして、大金で膨らんだポケットを押さえる。
(……これ、危なくないか?)




