第102話:鍵のかけ忘れにご用心
帰り道。
ユウトは、うら飯屋の前で足を止めた。
「……」
店の扉は閉まっている。
看板も出ていない。
中から人の気配もしない。
(また閉まってる……)
ユウトは、少しだけ肩を落とした。
(やっぱり、パソコンの販売に向けて忙しいのか……)
うら飯屋。
この世界に来てから、何度か世話になった店。
気軽に飯が食べられる場所。
それが閉まっていると、地味に困る。
ぐぅぅぅ。
腹の音が鳴った。
「腹減った……」
ユウトは自分の腹を見下ろす。
「はぁ……」
ため息をつき、再び歩き出した。
(帰ったら、またハンバーガーでも食べるか)
(創造スキル様様だな……)
食べ物を創造できる。
飲み物も創造できる。
改めて考えると、とんでもなく便利なスキルだ。
(買いに行かなくても飯が出せるって、冷静に考えて最強だよな……)
ユウトは、自分のスキルに少しだけ感謝した。
その時。
ふと、何かが頭に引っかかった。
「……」
そう言えば。
この世界って。
ユウトは、ゆっくりと周囲を見渡した。
人通りの多い道。
小さな屋台。
飲食店。
雑貨屋。
服屋。
空を飛ぶ車。
地上を歩く人々。
「……」
無い。
ユウトは目を細める。
(無い……よな?)
念のため、通りをもう少し歩く。
人の流れを確認する。
店先を確認する。
路地の角も見る。
屋台の並びも見る。
「……やっぱりそうだ」
この世界には、あれが無い。
(いける)
ユウトの足が止まる。
(いけるぞ、これ……!)
胸の奥が、じわじわと熱くなる。
「……」
アパートの周りも確認する。
敷地内。
通路。
部屋の前。
どこを見ても。
(やっぱり無い……!)
ユウトの口元が、ゆっくりと緩んだ。
新しい金儲けの予感。
いや。
新しい不労所得の予感。
「へへへっ」
思わず声が漏れた。
「……」
「へへへっ」
もう一度、声が漏れる。
怪しい。
完全に怪しい。
だが、止まらない。
その様子を。
無言で見つめる女がいた。
「……」
一方、そんなことなど知る由もないユウトは、自分の部屋の前に立ち。
鍵を開け。
扉を開く。
そして、そのまま部屋に入った。
「……」
扉が閉まる直前。
ユウトの顔には、まだ笑みが残っていた。
部屋の中へ消えていくユウト。
その表情は、完全に悪いことを考えている顔だった。
そして――
一度部屋に戻り、鍵がかかっているかを再度確認する女。
マヤであった。
ガチャガチャガチャ……。
それはもう、念入りに。
ガチャガチャガチャ……。
バンバンバン。
それはそれは、念入りに。




