第101話:行列での出会い
「じゃあユウト君、また明日ね!」
「はい」
「ありがとうござい……」
「次の方、どうぞ」
ユウトが席を立つなり、食い気味に次の商人が呼ばれた。
(早い……)
(流れ作業すぎる……)
ユウトは少し引きながら、窓口を離れた。
そして、ふと隣の窓口を見る。
そこでは、バルドの姿をしたセレスが、分厚い書類の束を前にしていた。
担当職員が書類を確認し。
セレスが頷き。
また別の書類を取り出す。
まだまだ終わりそうにない。
(ちょっと様子見るか……)
そう思い、ユウトが近づこうとした瞬間。
「あぁ、ダメよ!」
背後からケイトの声が飛んできた。
ユウトはびくっと肩を揺らす。
「え?」
「他の商会の決算内容は、機密情報にも関わるから」
「関係者以外は近づいちゃダメ」
「あっ、すいません……」
ユウトは慌てて頭を下げた。
(怒られた……)
(一応、俺バルド商会のバイトなんだけどな……)
そう思ったが、口には出さない。
言ったところで、面倒になりそうだった。
その様子を、セレスがニヤっと笑いながら見ていた。
バルドの顔で、妙に楽しそうに。
「こっちは、まだまだ時間がかかりそうじゃ」
「悪いが、先に帰ってくれ」
「んじゃ、お言葉に甘えて……」
ユウトは軽く手を振り、商業ギルドを後にした。
外へ出る。
すると、相変わらず行列は絶えない。
むしろ、朝よりも伸びているように見えた。
「……」
ユウトは無言で列を見る。
商人。
店主。
帳簿を抱えた従業員。
疲れた顔の者。
諦めた顔の者。
怒っている者。
眠そうな者。
いろんな人間が、ギルドの門へ向かって並んでいる。
しばらく歩いていると――
「おや、ユウト殿」
聞き覚えのある声がした。
ユウトが振り向くと、そこにはウラジオがいた。
列の中に。
普通に並んでいた。
「ども」
ユウトは軽く頭を下げる。
ウラジオはにこやかに笑う。
「いやぁ、今日は特に混んでおりますな」
「早めに出たというのに、この位置ですよ」
そう言って、ウラジオは苦笑した。
ユウトは列を見る。
ウラジオの前には、まだかなりの人数が並んでいる。
後ろにも、さらに長い列。
(大商会の社長でも、普通に並ばされるんだな……)
少し意外だった。
「ウラジオさんでも並ぶんですね」
「もちろんでございます」
ウラジオは肩をすくめる。
「商業ギルドの決算日は、誰にとっても平等ですからな」
「平等……」
ユウトは長い列を眺めた。
「嫌な平等ですね」
「ハハハ!」
ウラジオは楽しそうに笑った。
「まったく、その通りですな」
その時。
列が、少しずつ前へ動き出した。
「おっと」
ウラジオが前を見る。
「では、ユウト殿」
「後ほど迎えに伺います」
列に合わせて、ウラジオの姿が少しずつ遠ざかっていく。
ユウトは手を振りながら、その背中を見送った。
(さて……)
「帰るか」
行列を横目に、ユウトは歩き出す。
すると――
「あれ?」
見覚えのある姿が目に入った。
「ども」
ユウトが軽く頭を下げる。
「これはこれは、ユウト殿」
そこにいたのは、レグナスだった。
相変わらず穏やかな笑みを浮かべている。
「お元気そうで何よりです」
「あの……」
ユウトは少しだけ姿勢を正した。
「村でのこと、ありがとうございました」
「はて?」
レグナスは、笑顔のまま首を傾げる。
「何のことでしょう」
とぼけている。
本人はそう言っているが、ユウトには分かっていた。
聖霊祭の夜。
ユウトがドラゴンを追い払ったことにしてくれた。
そのおかげで、村人から批判を受けることも怖がられることもなかった。
感謝してもしきれない。
「……」
ユウトはもう一度、軽く頭を下げた。
レグナスは、ただ穏やかに笑っている。
「それはそうと、ユウト殿」
「はい?」
「何やら、ウラジオと面白いことをしているようで……」
レグナスの目が、少しだけ商人のものになる。
「ぜひ私にも……」
「おっと……」
その時、列が動き出した。
レグナスは前を見る。
「では、ユウト殿」
「いずれ近いうちに」
「はい」
(レグナス商会か…)
(今度行ってみるか)
ユウトは手を振りながら、レグナスを見送った。
そして、再び歩き出す
「おや?」
「まさか、このような所でお会いできるとは」
「ユウト君」
黒髪で長髪の男が声をかけてきた。
「……」
ユウトは足を止める。
(誰だ?)
見覚えはない。
長髪の男は、穏やかに微笑んでいる。
「失礼」
「デウス商会のルイス・デウスと申します」
「ハァ……」
ユウトは曖昧に頷いた。
「同じく……」
隣にいた若い青年が、何かを名乗ろうとした。
その時――
「おい、兄ちゃんたち」
「前、進んでるよ!」
後ろの商人が声をかけた。
「あぁ、すまない……」
「すいません……」
二人は慌てて前へ進んだ。
列に流されるように、ルイスと青年の姿が少しずつ遠ざかっていく。
その途中で、ルイスがもう一度こちらを振り返った。
「またお会いしましょう」
遠ざかる声。
ユウトは、その背中を見つめたまま立ち尽くした。
「……」
「なんだったんだ……」




