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忍び寄る手 其の弐

「こんなのまるで監禁よ。ほんとふざけてる。」


 日本だったら逮捕、監禁罪で捕まってるわ。などと顔を顰めて同意を求めるようにこちらを見る友人、宇治片に適当に相槌を打って「そうだね。」と僅かばかり不安そうな表情を作ってみると、その受け答えが気にくわなかったのか、はたまたは単純に話を続けたいだけかは定かではなかったが、彼女はそのまま話し続けた。


「てかなんでわざわざあんな集会みたいなことしなきゃいけないの?力の誇示とか?そんなことする暇があったら茶菓子の一つでも出せっての。」

「うーん、確かにそうだけど……で、でもほら!個人の部屋とかは好きに使っていいって言ってくれたし……それに、お腹、不思議とすかないし、さ。」


 そう弱弱しく言葉を続けると、不機嫌そうな顔で睨まれた。

どうやら宇治片の気に障ったらしい、まあ、いつもの事だからと次から次へと吐き出される攻撃的な言葉をさも傷ついてます見たいな風……要は効いている様に見せかけながら受け流していく。


「はあ?じゃあなに?あんたは呑まず食わずでも平気ってわけ?へーあたし知らなかったわ、あんたにそんな自殺願望があったなんて。」

「え?そ、そんなわけじゃ……。」

「大体あんたっていっつもそう。あたしばっかに全部言わせてさ、そんなにあたしを悪者にしたいわけ?ほんとあんたって性格悪いよね。」

「ご、ごめ。」

「ほーらそうやってすぐ謝ろうとする。謝って済むのなんて幼稚園児位だっつの、あんたのそういうとこ嫌い。」

「……。」

「今度はだんまり?……あんたって成長しないね。」


 成長していないのはどっちだ。と、言いたいことだけ言って現在仲のいい子のグループの方へと歩いていく幼馴染の姿を見送りながら私は心内で悪態をついた。

 まずここは日本ではない、いや、正確には此処も日本ではない、と言った方がいいだろうか?自身基、安倍川雪と宇治片。そしてその他のクラスメイトはいつも通りに体育でグラウンドに集合していたというのにいつの間にか描かれた魔法陣で異国情緒どころか時代錯誤も良いところなどこぞの異世界の国に召喚されていた。ここからしてもう既に心療内科か精神科に行くべきだろう内容である。

 思わず夢かと思ったが、夢で終わらせてはくれなかったその、いわゆるトリップというか、勇者召喚とかいう代物。寝ても覚めても待っているのは安息の地ではなく、不便極まりないクソみたいな勇者生活である。せめて転職の自由をくれ。


(第一、余所の常識を、それも異世界で語ったって意味ないっての。)


 ていうか、あの人自分の立場わかってる?と宇治片を再度ちらりと見て溜息を吐いた。

自分たちは当たり前に生きているわけではない、生かされている。否、見逃されているのだという事に。あの様子ではわかっていないんだろうな、とすぐに否定の言葉が浮かび上がって、思わず首を左右に振った。あの3人のお目付け役の、特にこの館の住人に掛け合ってくれている神官には頭が下がる思いである。主にさっきの馬鹿含めたことの深刻さの分かっていないアホ達を諫めてくれているという事に、ではあるが……。


 フラフラと足をよたつかせて、そのまま床に座り込む。

 その様子を見ていた……とは言ったって、さっき一方的に怒鳴られていた時も見ていたくせにそのまま我関せずを貫いていた連中だが、が心配そうに駆け寄ってきて今更言葉を掛けてくる。


「だ、大丈夫。ちょっと、疲れてるんだと思う。大丈夫だから。」


 そう言って、力なさげに手を振ると、そのまま膝を抱えて、そこに顔を埋めた。

 自分のためにあの神官を呼びに行くと遠ざかる声に、少し頭を揺らす程度で答えるふりをして、周りに人の気配がしなくなったところで、膝裏にあった腕、その袖口からするりと、何か。薄い銀色のプレートの様な物を取り出して、膝の僅かな隙間からそれを盗み見た。

 こちらに飛ぶ前に、とある女性から頼まれた、自身の役割。


―――これさえあれば、君の願いもすぐに叶うよ。


 いつぞや言われたその言葉を思い出して、思わず口元が吊り上がる。


(別に叶おうが叶わなかろうが、どっちだっていい。だって、私の願いは―――。)


 そのまま、立ち上がろうとしてよろけるふりをして、壁に寄り掛かった。

 やはり、それを見ていた人物が慌てて駆け寄ってくる。


(まあ、この人でいいか。)


 目の前で不安そうな顔で話しかけてくるクラスメイトに、気丈な笑顔を返してからほんの少し震える声で銀色のプレートを差し出した。


「あ、あのね。実はお願いしたいことがあって……このプレートを、あの広間に置いてきてほしいの。」


 別にいいけど?と不思議そうに首を傾げるクラスメイトに「ごめんね。」と言って、更に念を押すように言葉を追加した。


「なんか、できれば部屋の中央辺りにって、宇治片さんが……本当にごめんなさいね。私がいければよかったんだけど。」


 彼は入学当初から同じクラスだったが故か、そう話すと「ああ」と納得したような、憐れむような表情をした後に勝手に納得してくれたようで、手を振って別れた。

 あの様子だったら変に疑って失敗することも無さそうだ。


 再び歪に吊り上がりそうな唇を、片手で抑えるが、「ふふふ」という笑いがほんの少しばかり漏れ出た。


(精々役に立って頂戴ね?宇治片さん。)

 

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