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忍び寄る手

 ベル……にしては高音で細い印象を受ける独特の音色が、絶えず室内を満たしている。


 室内そのものは一面黒ではあるものの不思議と明るく、中央の円卓に座る数名の人物と、その人物たちのいる場所からかなり低い位置にある、まるで観客席の様に取り囲むように設置された席に座る人々の様子が良く見えた。その様は異様であり、皆一様に頭巾を被り頭を垂れている。




「んで?今日はどんな用なんだ?」




 ギッと椅子を鳴らして足を円卓の上に投げ出した少女が、億劫そうに言った。




「あらあら流石剣を振り回すしか能のない脳筋は定例会まで忘れてしまったのぉ?」




 それにくすくすと明らかに嘲る様な笑いを含んだ声音で返したのは丁度足を投げ出した少女の迎え側に座っているスラリとした長身の人物である。




「あ゛!?てめえなんつった?このカマ野郎。」


「あらやだこわーい!でも言葉のボキャブラリーなさ過ぎて笑えちゃーう!なによカマ野郎って別にそんな今更なこと馬鹿正直に言われたくらいじゃ何とも思わないわよ。」


「はあ?んなのわざとだわざとお!!そもそも聞き返しただけだっつの!てめえこそ思い込みで決め付けてんじゃねえよ、それとも更年期で余裕も無くなっちまったか?」


「剣の性能に頼りっきりの小娘が。」


「はん、やろうってのか?上等だ、掛かって来いよ!!」




 双方が獲物に手を掛ける僅かな音が鳴る。


 と、同時にがつんと鋭い音が一触即発の空気を醸し出していた空間に響き渡った。

 その音源となった鞘を持つ男は顔色一つ変えることなく、ただ静かにたたずんでいる。

 そんな男の様子を見た先程まで罵声を飛ばしていた二人はそれぞれが謝罪の言葉を口にするとすごすごと席に座りなおす。




「静かにしろ。私は時間が惜しい。……始めてくれ。」


「はっ。ではまず、転移門の解析ですが……D地点のみ連絡が取れていないため再度調査隊を派遣する予定です。しかし、他の転移門は既に閉じている様で、魔石を設置しましたが一向に起動しません。引き続き調査を行いたいと思っています。」


 冷たい、とは言っても氷の様というより鉄の様な無機質さを感じさせる声音で男が言うと、その隣に座っていた温和そうな男が席を立って朗々と報告を始める。


「続いて、例の魔族領の件ですが。」

「ちょっとまって、魔族って魔人の方?亜人の方?」


 先程のスラリとした男が少しばかり眉根を寄せて聞き返すと温和そうな男は「亜人の方です。」と咳払いをしてから事も無げに言ってみせる。

 それに行儀の悪い少女は少しばかり不快さを顔に滲ませたが、分別はつくのかはたまたは違う理由でかは定かではないものの黙ったままだ。


「人間側と小競り合いは頻発していますが、今はそれよりも部族同士の衝突でしょうか?最近では新たに亜人だけの国家の樹立を目指す動きもある様ですし……。こちらもまだしばらくは収まらないでしょうから捜査は継続させていただきます。……それから。」


 手元の資料をご覧ください。という声につられる形で他の面々が資料に目を通すと、そこには37人分の顔写真と一言二言のプロフィールが載っており、処理済みの判子がつかれていた。


「忘却の泉に送り込んだ失敗作たちが目的地に到達したようです。やはりあそこもゲートになりうる場所かと……。」

「あー、ケイちゃんケイちゃんそれ無理。」


 離し続ける男に被せる形で先程まで会話に一切参加していなかったメガネの少女が笑う。


「あの子たちの中にはほら歯抜けちゃんがいるからさあ……それに引き寄せちゃんもいるじゃなあい?今頃ぐちゃぐちゃになって潰れてるよそこ。」


 あーあ、惜しいことしちゃったねえ。と特に残念そうでもない声音が虚しく響いた。

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