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流されて、今

 目を覚ました鈴鹿が最初に目にしたのは……近づいてくる見知らぬ男の顔面だった。


「っ!?」

「うお!?」


 咄嗟に先程ジルネーとの強制無限裁判で習得した鎖を放出して男を絡めとる。

 思わぬ事態に内心でだから攻撃できないなんて誓約はいらなかったのにっと鈴鹿は舌打ちをしたくなったが、まずは目の前の不審者を何とかしなければと鎖の拘束が強くなることを考えながら「誰か!!」となるべく大きな声で叫ぶ。

 遅れてバタバタと近づいてきた多数の足音が部屋の前あたりで止むと、乱暴に扉が開かれた。

 開かれたというより蝶番が取れかかっているところなどからどうやら力任せに蹴破ったらしい。


「無事か!?」


 飛び込んできたのはアースレイと付喪神たちだったが以外にもアースレイは今までの様に敵対対象と認識したほうではなく、すぐに鈴鹿の目の前にまで駆け寄ってくる。

 逆に付喪神……不知火は破いた紙を男の背中に貼り付け、マチ針……ではなく裁縫箱の付喪神である綾取が何処からか出した糸と針で男を拘束し直した。

 綾取に至っては男の喉元に裁断用の鋏を突き付けている。


「お待たせしてしまい申し訳ありません。今すぐに処理いたしますが……如何様にいたしましょう?」


 ジルネーとはまた違った胡散臭さを感じさせる所作で綾取はニコリと笑った。


「……「隔離部屋に戻しておけ。記憶も消してな。」


 状況の飲み込めない鈴鹿の代わりにアースレイが返事をすると、じっとアースレイと鈴鹿を見ていた綾取ではあったがそれも一瞬のことですぐにいつもの調子で「かしこまりました。」と笑って見せた。

 そのまま、溜息を吐く不知火と綾取にズルズルと引きずられていく男。

 ばたんと扉が閉まるといきなり両頬を包まれてペタペタと触られる。

 触られる鈴鹿はそのままだが、はっとしたアースレイは手を引っ込めてきまり悪そうに自身の頬を掻いた。


「す、すまない……君があの人に特訓を付けてもらっていたことは既に聞いていたんだが……意識の戻らない君を見るとどうしても不安になってしまって……本当にすまない。」


 不躾だったなと項垂れる様子は2メートルを超えるであろう長身の、それも陰のある美丈夫だというのに何処か叱られた子どもの様に感じさせられるもので、しばし呆気にとられた鈴鹿ではあったがふっと笑みが零れる。

 意外な一面を見たことによってほんの少し距離が縮まったと錯覚しているのだろうか、暖かくなる胸の内に漂うよくわからない安堵のような歓喜の様な何かにはたと思考を一度立ち止まらせた鈴鹿は首を傾げる。


(何かしら、これ……遠いところに居たと思ったアースレイが実は身近な存在に見えて嬉しいような?なんで?)


 理由を探ろうと神様モドキになってから行動を振り返ってみる。

 ……の、だが……。

 思い出されるのはジルネーを働かせた記憶とかジルネーを〆た記憶とかジルネーを椅子に縛り付けた記憶とか……ともかく師匠関係で協力し、時に双方愚痴やら泣き事やらを言いながら懸命に取り組んだ記憶たちがよみがえってきた。


(うわあ……見事に迷惑かけた記憶と振り回された記憶しかない)


 そう言った、恐らく好意的な物を向けられる様な、そして逆に向けるようなことなんてそれこそ苦労人同盟位である。


(いやいやいや、もしかしたらおんぶにだっこ状態だから自ずとかっこよく見えるとか?)


 それにあの性格である。人間に対しての行動や極端な行動にさえ目を瞑ればかなりの優良物件だろう。そう、その一部に目を瞑れば……目を、瞑れば、見えなくはない……はずだ。

 そもそも……。


(これは、好意ではあるけれど、恋慕じゃない。)


 きっと、それは向こうも同じであろう。

 今回意識を持っていったのはジルネーだったし、何よりチュートリアルという名の繰り返しの裁判モドキをしていたのだ、きっと自分と同じような目に遭っているであろう妹弟子を思って心配してくれた。ただそれだけだ。

 そうして、それは鈴鹿だってそういった理由紛いは簡単に思い至った。

 

(たぶん、流され過ぎて取り残された気になっていたんだ、私。)


 神様モドキになってからというもの流されてばかりで、結局そのまま今こうして箱庭とかいう訳の分からない世界に入ってしまっている。

 最初は人探しだったのに、今は何故か決闘の準備をせかされているという、変な流れだ。

 何かを差し出したわけでもないのに、何かを選んだ(捨てた)わけではないのに無条件で助けてくれる周囲。もちろんこれは少し前までの付喪神たちにも言える事だ。

 彼らからは一応納得はまだしていないが、それでも理由は貰った。

 けれどそれ以外、一番肝心なアースレイからは何も聞いていないし、何より最初から優しかった。

 だからそういう人なのだろうと無理矢理納得させていた節があったのだが、地上に出た時の他への態度を見て、いつこのぬるま湯の様な関係が崩れてしまうのかと、どうしようもなく不安だったのだ。

 アースレイという神を、その優しさを、その酷さを、理解することが出来なかったから。

 何より、そんな何より自分に尽くしてくれている(少なくともそう見える)彼に何も返すことが出来なかったから。


 だからきっと逆にさっきの人間くさいところを見て、決して無理ばかりしているような人ではないことが分かってほっとしたのだ。

 本気で、鈴鹿のことを心配していてくれたことが分かったから。


 きっと、そう。と胸を撫で下ろす思いの鈴鹿にアースレイは更に言い辛そうに口を開閉させたあと、意を決したように口を開いた。


「実は君が向こう側に行って少しして見慣れない格好の集団が現れて……どうやらその……

とある国で召喚された勇者たち、何だそうなんだが……。」


(また勇者……。)


 今度は何のための勇者なんだ。と溜息を吐きたくなった鈴鹿は、アースレイの言葉に頸を傾げた。


「……あの、聞き間違いだったごめんなさい。勇者たち(・・)?」


その言葉に、目の前の死神は仕方なしといわんばかりに頷いて、溜息を吐く代わりに額を抑え頭痛を抑えるような動作をした後、言った。


「ああ、勇者たち……37人の学生らしき少年少女がそれぞれ皆自分を勇者だと言っている。それを召喚した国の者らしき3人の男たちもそうだといっていてな……今、ノゼヴィルに確認を取っている。」


どうしたものかと二人揃って頭を抱えた。

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