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フィリーと言う少女

「……実は私たち、愛と美の女神ニーグメージュに美しさを分けてもらおうと旅をしていた途中だったんです。」


正座で話し出すフィリーを見ながら正座という文化がこの世界にもあったことに感心しつつ鈴鹿はその辺の切り株に腰かける。

アースレイに至ってはそこから微動だにすることなくただじっとフィリーの話に耳を傾けていた。


「それで、やっとニーグメージュが囚われているという町に着いたはいいんですけど……その、いろいろありまして……仲間とはぐれて、いつの間にかあんなことに……。」


そのあんなこととは十中八九目の前にいる男のせいなのだが、言うべきか言わないべきかと戸惑いはしたものの鈴鹿は余計な混乱を招くだろうと言わないことにし、ちらりとアースレイを見る。


「……それで、お前たちは美しさ何て手に入れて何をするつもりだったんだ。」

「それは……!?うっ!?」


うううっと苦し気に呻いたフィリーはそのまま背中をくの字に曲げてその場に転がる様に倒れ込んだ。

しかし、思わず切り株から立ち上がって駆けだそうとした鈴鹿とは対照的にアースレイは何をしてやるでもなく、ただ鈴鹿を手招いた。


「手を」


言われたとおりに差し出された手に手を重ねると何かが抜き取られる感覚が全身を駆けぬける。

思わず離そうと手を振ろうとするもまるで包帯か何かでぐるぐる巻きにされたかのように手が動かない。


「……これくらいでいいか。」


ポツリと落とされた呟きとともに手が離れると束縛のようなものもなくなった。

そのまま掌の上に何か光の塊の様な物を作り出したアースレイはそれをフィリーへと吹き掛ける。

光の塊はフィリーの胸元辺りに吸い込まれるように消えて、同時にフィリーの呼吸や顔色が楽になるのが見えた。

と、ほぼ同時にガバリと起き上がり涙を浮かべながらこちらを見てきた。


「あ、あの。ありがとうございました!一度ならず二度までもっ。」

「はい?」


(何故お礼?)


少なくとも見ていただけだった鈴鹿はその、明らかに自分に向けて言われた言葉に混乱する。

どうすればいいのか判らずアースレイの方を見ると滅茶苦茶いい笑顔で鈴鹿を見ていた。


(お前かあああっ)


何となくではあるがまたもや兄弟子がしたであろうこの状況に着いていけず、内心で頭を抱える彼女ではあったが、気を取り直して彼女との会話を再会させる。


「それじゃ、どうして美しさが必要なのか、話してくれます?」

「はい!実は王妃様……あ、聖王国の何ですけど。その王妃様がかなりの高齢で執務が困難になってきたと言うことで私たちに若返りの秘薬を作る様命令が下ったんですっ。」


まるで憧れのアイドルを前にしたファンの様な熱烈さで語られる内容に鈴鹿は首を傾げる。

確か自分が生きていた頃は少なくとも若返りの秘薬なんてアイテムは聞いたことがなかった。勇者に来る任務も大体が討伐で採集や生産なんてものはした覚えがない。

自分がいない間に変わったのだろうか、とまで思考した鈴鹿のなかでふとした疑問が浮上する。


(そう言えば、此の世界って私が死んでからどれくらい後の世界なんだろう。)


世界の生活水準やらを見るにそこまで経ってはいないのかもしれないが、これも近い内にハッキリさせなくてはいけないだろう、他との話の噛み合わせのためにも。

そんな事かんがえているとすぐ傍、フィリーが溜め息を溢した。


「まあ、冒険者がもっといれば、私たちには回って来なかったんでしょうけど。」

「と、言うと?」


鈴鹿の言葉にきょとんとした表情になったフィリーであったが、すぐに勝手に納得したらしく「ああ!」と明るい声で言った。


「成る程!余所の国の人でしたか。それなら王子にあの態度で挑んだのも分かります……実は、この国はもう落ち目なんです。」

「お、落ち目?」


パアッと顔を輝かせたかと思いきや急に落ち込みだす様子に忙しない子と言う印象を受けつつ鈴鹿は鑑定()を発動させる。

展開させると相手にバレるかもしれないことも考慮して眼球に直接転写させ、再びフィリーの方を見た鈴鹿であったが肝心の少女はきづいていないらしく、即席ではあったものの上手くいったことに安堵した。


名前、年齢などを見ていた鈴鹿であったがその経歴を見ていくと徐々に口元をひきつらせる。


(魔術学院の学費捻出を兼ねて奉公にって……明らかな厄介者払いじゃない。そのお金は両親が使い込んで残っていないみたいだし)


それでも両親の下の子の治療費にしたという嘘を信じてめげずに働き続ける彼女の姿勢には涙が出そうである。

遂に本末転倒と言うか学業にさく時間がなくなり単位を落としており、おそらくこの任務を耐えて学院に戻っても退学がほぼ確定している。

更に言えば学院内でも彼女は使い勝手のいいパシリとしてコキ使われていたらしい。

この子の幸せは?と仲間にあっさりと見捨てられた事を知っている鈴鹿は益々泣きそうになった。

嘘をついていないか、身元は信用がおけるのかの確認程度で得られたそれ以上の悲壮感に心が折れそうである。


「実は、ずっと昔、私がまだ生まれる前の話何ですけどある一人の聖人の処刑が発端で革命が起こったんです。その革命の名を白き手革命、あ。貴女方はカラルド聖戦の方が馴染みがあるかもしれませんね。」


教科書に載ってるくらいですし。と笑うフィリーに、今度はアースレイがあいのてを入れるかのように話し出す。


「カラルド聖戦……カラルド帝国が宣誓した、聖王国以外の国が初めて聖戦を冠する事を赦された戦争だな。」


「はい。その聖戦……というか革命の影響がまだ残ってまして冒険者や商会は一部を除いて殆ど寄り付かないですよ。この国には……。」


だから勇者であるアレイン王子も聖女と名高いオリビア様もああして討伐以外の任務に駆り出されているんです。とフィリーはまた溜め息をついた。


「……いや、まあ分かるんですけどね?気持ちは。私もここの国には仕事でも余り長居したくないですし、誰だって王家の巻き添えは御免でしょうから。」

「巻き添え?」

「知らないですか!?ううむ、やっぱり箱入りなのですね。貴女。」


そこでこほんと咳払いをしたフィリーは改まった態度で話を続けた。


「ここ、聖王国は死神アースレイの生誕地だからですよ。」

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