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世の理不尽

「正確にはその契約を結んだ時から今に至るまでの成果を徴収させてもらった。というべきか。」

「……まさか。」


穏やかに笑うアースレイの言葉の意味が分かった鈴鹿は絶句する。

その契約がどれほど古いものなのかは腕輪を詳しく視なかった鈴鹿にはわからない、だが今に至るまでの成果ということはつまり……。


「……彼女自身(血筋)すら、その対象だったと?」


アースレイは何も答えない。

それが如実に真意を現わしていた。


成果……詰まる所、腕輪が関わった、否。腕輪を授かった時点から腕輪の力の有無関係なく成してきたもの全て。もちろんこの場合権力やら金銭といったものだけでなく、その地点から発展した人間関係や血筋も勘定に入ってしまっている。


(だから、あの時記録も……?)


ステンドグラスが割れるように崩れていく文字を思い出してなるほどと鈴鹿は独り言ちた。

どおりで最後の情報が少なかったわけだ。文章が失われていく中で最期に残ったのは偽名と現状。

それは彼女が者から物へと変わったが故の残りカス。

展示品名と紹介文とでも言ったところだろうか。


(いや、だからと言って仲間に威嚇射撃したくらいでそんな重い罰を与えるのもやりすぎじゃ……?)


銃口を向けられた、いや、もっと正確に言うと撃たれはした。が、掠りすらしていない。

だというのにやはり代償が大きすぎないだろうかと鈴鹿は眉根を寄せる。

そんな妹弟子の姿に先程までの笑顔を苦笑に変えてアースレイは続ける。


「言っておくが代償はあくまでも代償だ。それにふさわしい犠牲であって、俺が任意で変えられるわけじゃない。最初、契約を結ぶ時点から決められたルールだ。」

「ルール……。」

「そう、ルール。さっきの奴の場合俺との契約内容のうちの一つ。他の神に手を出すべからずを破った。だからこそ契約破棄と見做されてああいった末路を晒す羽目になったわけだ。」


(ルール、ルール。またルール。……意外と神様って縛りプレイ……?)


ジルネーも転生しても連れ戻される、やら、容姿の事もルールで決められていると言っていたのを思い出して鈴鹿は首を傾げる。

案外全知全能の象徴たる存在である神もそんなに自由はきかないという事なのだろうか。

どのみちそんな神様から更に縛りを課されるこの世界の人類は更にきついのかもしれないが……。


冥界(むこう)に戻ったらまた勉強ね……まだまだ分からないことがありすぎる。)


勉強自体はあまり好きではないが、こういった実技の様な事がこれからもあることを考えると物の好き嫌いを言っていられるほどの余裕はないだろう。

幸い冥界の書庫は蔵書量が半端なく多いので何か役に立つようなものがあるはずだと鈴鹿は図書館を脳裏に思い浮かべた。


「……だから、契約は穴だらけにするより事細かに決めたほうが……。」


鈴鹿が図書館の蔵書を想像している傍らで契約の講義をしていたアースレイであったが、そこまで言ってから袖口から刃の付いた鎖を投擲する。

それは鈴鹿の方へ向かうとそのまま通り過ぎ後方で何かに絡まったのかジャラジャラという音と「はひいぃぃぃ!?」という何とも言えない悲鳴が聞こえてきた。

鈴鹿が振り返るとそこには……先程まで気絶していたフィリーの姿があった。

鎖は流石神の持ち物というべきか傷一つつかないどころかキッチリと獲物であるフィリーを縛り上げている。対するフィリーはというと状況が呑み込めていないのか、はたまたは呑み込んだうえでそうしているのか定かではないが逃げようと必死に足をバタつかせている。


(……ネズミ捕りとネズミ)


何故だろうか。と助けることもせずにじっとその様子を見つめる鈴鹿の脳裏に前の世界で祖母がネズミ捕りに引っかかったネズミを何処かにもっていく様が思い出される。

あの鉄製の檻にかかっていたネズミはあの後どうなったのだったか。

まるであの時のネズミの様だと目の前のフィリーのことを見ていた。


そんな彼女とは対照的に捕獲を成功させたアースレイはわざと足音を立てながらフィリーの眼前まで歩いて行ってしゃがみ込む。


「さて、君の目的と「ひええええぇぇぇっ包帯お化けっおおおお助けええええっ!!」……あ゛?」


今度こそ暴れだしたフィリーとどす黒いオーラを身に纏うアースレイ。

心なしフィリーを縛る鎖もギリギリと彼女に食い込んでいっている。


「ぐえっ!?な゛、ながみっ!ながみ゛でじゃっ……ぎゃう!?」

「済まない、手が滑ったようだ。」


ビタンッと骨が折れない程度に地面にフィリーを叩きつけたアースレイは胡散臭そう(さわやか)な笑顔でそう言って鎖を袖口へと素早く戻した。当然の様にフィリーを再度地面へと叩きつけて。

対するフィリーはウウウウっと呻き声を上げながら悔しそうにアースレイの方を見ている。


「さて、それじゃあ改めて聞こう。君の目的はなんだ。」

「ふんっ」


そっぽを向いて黙秘を貫くフィリーにアースレイは再度穏やかな微笑を浮かべて……袖口から鎖を取り出した。





「い゛、い゛う。いいまずがらああ゛」


下ろしてえええと言うフィリーは現在かなり高さのある木の小ぶりな枝の先に鎖で括りつけられている。

半泣きどころか涙と鼻水でグシャグシャになった顔で宙吊りになっている姿は見る者によっては滑稽だと映るかもしれないが、鈴鹿にはただただ哀れとしか言いようが無かった。

これで通算8回目のやり取り。遂に陥落した少女に素敵な笑顔で頷く兄弟子。


「そうだな。素直が一番だ。」


そんなやり取りをただ傍観していた鈴鹿は思った。


(これ、今更だけど私が浄玻璃鏡で見ればいいだけだったんじゃ……?)


そうすれば少なくとも目の前の少女が8回も理不尽なめにあわずに済んだのかもしれなかったが、時既に遅しであった。

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