第九十九話 夏の終わりと秋の足音
おばちゃんを見送り、静けさを取り戻した店内で、
朔夜は夜風を通すために少しだけ窓を開けた。
入ってくる風には、もう真夏の刺すような熱気はなく、
どこかしっとりとした秋の気配が混ざっている。
「すっかり涼しくなったな、クロノ」
声をかけると、カウンターの上で丸くなっていたクロノが、
金色の瞳を瞬かせて「にゃぁ」と柔らかく鳴いた。
◆
ルリリンゴの星空プリン、初めての二連休、
クロノとの市場へのお出かけ、そしてサマーベルとハニードロップのジェラート。
駆け抜けるように過ぎていった八月の出来事を思い返しながら、
朔夜はカウンターの上のノートをめくる。
お客さんたちの笑顔と、美味しそうに食べてくれた光景が、
ページをめくるごとに鮮やかによみがえってきた。
◆
「レインさんが言っていた秋の木の実や茶葉、
それに市場のおばちゃんが教えてくれる秋の果物……。
次の季節も、楽しみがたくさん待っていそうだな」
朔夜が微笑みながらノートを閉じると、
クロノがトトッと寄ってきて、朔夜の手にすり寄った。
その温もりを感じながら、朔夜は優しく背中を撫でる。
どんな季節が訪れても、この場所で、クロノと一緒に
美味しいものと笑顔を届けていけることが何より愛おしかった。
◆
カチ、と店内のランプを落とし、
窓から差し込む優しい月明かりだけが二人を包み込む。
「さて、明日もいい日にしよう。おやすみ、クロノ」
「にゃ〜ん」
短く応えたクロノを抱き上げ、朔夜は奥の部屋へと向かう。
巡りゆく季節の足音を聞きながら、
黒猫亭の八月は、穏やかに幕を下ろすのだった。




