第九十六話 夏の終わりと夕立の気配
クロノが心地よさそうに眠る中、
窓の外の光が少しずつ陰りを帯びてきた。
カラリと晴れ渡っていた青空の奥から、
もくもくと厚みのある灰色の雲が湧き上がり、
生ぬるい風がすうっと店内を通り抜ける。
「ん……? 雲行きが怪しくなってきたな」
朔夜が窓の外を見上げると、
遠くの空でゴロゴロと微かに雷鳴が轟いた。
◆
「みゃ……?」
低い雷の音に反応して、クロノがぴくりと耳を動かし、
金色の瞳を丸くして顔を上げた。
まだ眠気が残っているのか、ふわぁと大きなあくびをひとつ。
「起こしちゃったか。夕立が来るみたいだな」
朔夜は窓に歩み寄り、吹き込む風で雨が入らないよう
隙間を残して静かに閉めた。
◆
ぽつ、ぽつ、と大粒の雨が乾いた石畳を濡らし始めると、
あっという間にザザーッと勢いよく降り注ぐ夕立になった。
激しい雨音とともに、それまでの熱気を一気に洗い流すように、
ひんやりとした涼しい空気が窓辺を満たしていく。
クロノはカウンターからひょいと窓枠に飛び乗り、
ガラス越しに勢いよく流れ落ちる雨粒を
興味深そうに前足で追いかけるように見つめていた。
◆
「すごい雨だな。でも、これで一気に涼しくなりそうだ」
熱い大地を冷ます恵みの雨。
雨音だけが心地よく響く店内で、朔夜はクロノの隣に並び、
一緒に外の雨景色を眺めた。
厳しい夏を乗り越え、少しずつ移ろいゆく季節の匂いが、
濡れた風に乗って静かに届いてくるのだった。




