第九十七話 雨上がりの虹と涼風
しばらく降り続いていた夕立は、
やがて勢いを弱め、静かな小雨へと変わっていった。
雲の切れ間から、夕暮れの柔らかい光がすうっと差し込み、
濡れた石畳をキラキラと照らし出す。
「雨、上がったみたいだな」
朔夜が窓を少し開けると、
雨で洗われた澄んだ空気と、ひんやりとした心地よい涼風が
店内にすうっと流れ込んできた。
◆
「にゃぁ……!」
窓辺に座っていたクロノが、嬉しそうに短く鳴いて
窓の外の空をじっと見上げている。
「ん? どうしたんだ、クロノ」
朔夜もクロノの目線の先を追うように見上げて、思わず息を呑んだ。
茜色に染まり始めた東の空に、
くっきりと大きな七色の虹がアーチを描いていたのだ。
「すごいな……綺麗な虹だ」
◆
日中の猛烈な暑さが嘘のように、
通りには涼しい風が吹き抜け、家路につく人々も
足を止めて空の虹を見上げている。
濡れた街並みと、澄んだ夕空に架かる虹。
異世界で初めて見るその美しい景色に、
朔夜はクロノと一緒にしばらく見惚れていた。
隣でクロノも、金色の瞳を丸くして
静かに空を見つめている。
◆
「よし、空気もすっかり涼しくなったし、
夜の営業に向けて温かいお茶の準備でもしようか」
朔夜が声をかけると、クロノは満足そうに
「にゃん」と喉を鳴らして窓枠からひらりと飛び降りた。
夕立が洗い流してくれた夏の暑さと、空に残る虹の余韻。
黒猫亭には、穏やかで涼やかな夕暮れの時間が
優しく満ちていくのだった。




