第九十五話 夏の盛りと看板猫の昼下がり
お昼のピークが一段落し、
店内の喧騒がふっと落ち着いた。
氷の入ったグラスや硝子の器を片付け、
朔夜はふうと息をついてカウンターを拭き上げる。
「今日もたくさん出たな、ジェラート」
カウンターの端を見ると、クロノが日陰になった特等席で
前足を綺麗に揃えて座っていた。
◆
クロノは店内の涼しい空気に心地よさそうに目を細め、
ピンクの舌で前足を丁寧に毛づくろいしている。
お客さんたちにたくさん「可愛いね」と撫でてもらい、
看板猫としてのお仕事をしっかり果たしたあとのリラックスタイムだ。
「クロノ、お疲れ様。
お前のおかげで、今日もみんな笑顔で帰っていったよ」
朔夜が優しく声をかけると、
クロノは「にゃふ」と短く喉を鳴らして応えた。
◆
開け放した窓からは、遠く市場の賑わいや、
夏を告げる虫たちの声が微かに風に乗って届いてくる。
カウンターに顎をちょこんと乗せたまどろみ顔のクロノの横で、
朔夜は冷たい水出しのお茶を一口飲んだ。
暑い盛りだからこそ、こうして店の中に生まれる
穏やかで涼しい時間がとても愛おしく感じられる。
◆
「すぅ……すぅ……」
やがて、クロノは静かに丸くなり、
小さな寝息を立て始めた。
金色の毛先が、木漏れ日のような柔らかい光に照らされてキラキラと輝いている。
「おやすみ、クロノ」
朔夜はそっとクロノの背中を指先で撫で、
午後の穏やかな静寂に身を委ねるのだった。




