第八十九話 冒険者の帰還と冷たい歓待
昼下がりの強い日差しが通りを照らしつける中、
カランコロンと涼しげにドアベルが響いた。
「ふぅ……さすがに暑いな。サクヤ、戻ったよ」
革の防具に砂埃をまとわせ、大きな荷物を背負って入ってきたのは、
ルリリンゴの際に気密瓶を調達してくれた冒険者のレインだった。
遠征から戻ったばかりのようで、
少し疲れた笑みを浮かべながらカウンター席へと腰を下ろす。
「レインさん! おかえりなさい、無事のお戻りで何よりです」
◆
「街に着いた途端、みんなが『黒猫亭の冷たいデザートが美味い』って
話しているのが聞こえてさ。気づいたら足がこっちに向いてたよ」
「ふふ、噂になっていましたか。まずはこれで涼んでください」
朔夜がすっと差し出したのは、たっぷりの氷を入れた冷たい水と、
硝子の器に盛り付けられた鮮やかな『特製フルーツジェラート』だった。
「おっ、これが噂のやつか。ありがとう、いただきます」
レインはスプーンを取り、ひとくち口へと運んだ。
◆
「……っ! これは美味いな……!
身体の熱が一気に引いていくようだ」
口いっぱいに広がるサマーベルの爽やかな酸味と、
ハニードロップの上品な甘みのハーモニーに、
レインは驚いたように目を丸くした。
「果実の味がすごく濃厚なのに、後味がすっきりしていて食べやすいよ。
遠征帰りの身体にはたまらないご馳走だな」
「喜んでいただけてよかったです。
レインさんが以前届けてくれた硝子瓶の密閉技術が、
果物の保存や仕込みにも大いに役立っているんですよ」
◆
「そう言ってもらえると、あの時頑張って運んだ甲斐があったよ」
レインが嬉しそうに微笑むと、カウンターの端から
クロノがトコトコと歩み寄り、
「お疲れさま」と伝えるようにレインの手元にすり寄った。
「クロノも、相変わらずいい子にしてたか? 可愛いな」
レインに優しく頭を撫でられ、
クロノは金色の瞳を細めて気持ちよさそうに喉を鳴らす。
旅の疲れを癒やす冷たい甘味と、穏やかな再会の空気。
八月の黒猫亭は、遠くから帰ってきた旅人にとっても
ホッと息をつける大切な場所となっていた。




