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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第八十七話 夏の夜の涼音と一日の終わり




夜の帳が下りる頃には、日中の刺すような熱気も収まり、

通りには心地よい夜風が通り抜けるようになっていた。


「マスター、ジェラート最高だったぜ! また明日な!」


「ありがとうございます。ガルドさんもセレスさんも、お気をつけてお帰りくださいね」


最後の客たちを笑顔で見送り、

朔夜は店先の黒板をしまって鍵を閉めた。


カラン、と静まり返った店内に

片付けのグラスを洗う水音だけが穏やかに響く。





「ふぅ……今日もたくさんのお客さんが来てくれたな」


洗い物を手早く終え、朔夜はカウンターの席に腰を下ろした。

すると、足元から「にゃぁ」と声がして、

クロノがひらりと膝の上へと飛び乗ってくる。


すっかりお出かけの疲れも抜けたのか、

クロノの金色の瞳は穏やかに細められ、

朔夜の手のひらにすり寄ってきた。


「クロノ、お前が市場で一緒に選んでくれたおかげで、

みんなすごく喜んでくれたよ。ありがとうな」


顎の下を優しく撫でてやると、

クロノは嬉しそうに喉をゴロゴロと鳴らした。





開け放した窓の隙間から、

異世界の夜の虫たちが奏でる涼やかな声が微かに聞こえてくる。


ふと朔夜は、日本で過ごした夏の夜や、

お盆の時期の送り火、冷たい麦茶の味を思い出していた。


(元の世界とは違う場所だけど……

こうして旬の果物で涼をとって、みんなで季節を味わうのは、

どこへ行っても変わらない温かさがあるな)


冷たいジェラートが運んでくれたたくさんの笑顔。

その余韻を胸の奥でじんわりと噛み締める。





「さて、明日も暑くなりそうだし、

サマーベルとハニードロップの仕込みをしてから寝るか」


朔夜が立ち上がろうとすると、

膝の上で満足そうに丸くなったクロノが

「まだ動いちゃダメ」とばかりに前足をとんと乗せてきた。


「ふふ、もうちょっとだけこのままでいるか」


優しい静寂と涼しい夜風に包まれながら、

黒猫亭の八月の一日は、静かに更けていくのだった。

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