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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第八十六話 夕暮れの風と薬師の休息




強い日差しが少しずつ傾き、

空が淡い茜色に染まり始めた頃。

ドアベルが静かに鳴り、一人の女性が姿を見せた。


「こんばんは、サクヤさん。

今日も本当に厳しい暑さだったわね……」


入ってきたのは、薬師のセレスさんだった。

夏の薬草採取や調合で忙しかったのか、

少し疲れた様子でカウンターの席へと腰を下ろす。


「いらっしゃいませ、セレスさん。お疲れ様です。

今日はちょうど、涼んでいただける新作がありますよ」





朔夜が運んできたのは、ひんやりと冷えたアイスティーと、

鮮やかなオレンジ色が美しい『特製フルーツジェラート』。


「まあ……とても涼しげで綺麗な色ね」


「サマーベルの酸味と、ハニードロップという濃厚な果実を

合わせて作ったジェラートです。

お疲れの身体に、果物の自然な甘みと酸味が効くと思いますよ」


セレスさんは静かにスプーンを取り、

ひとくち口へと運んだ。





「……っ、美味しいわ……!」


セレスさんの瞳がぱっと明るくなり、

身体からすっと余分な熱が抜けていくようにふうっと息を吐いた。


「サマーベルの爽やかな香りとビタミンが、

ハニードロップの糖分でまろやかに引き立っているわね。

冷たさも滑らかで、疲れた身体にすうっと染み込んでいくようだわ」


薬師らしい視点で素材の組み合わせに感心しながら、

セレスさんは幸せそうにスプーンを進めた。


「サクヤさんは本当に、食材の良さを引き出すのが上手ね。

生き返るような心地よさだわ」





「そう言っていただけて嬉しいです。

クロノも一緒に市場へ行って選んできた果物なんですよ」


朔夜が微笑みながら言うと、

カウンターの端で丸くなっていたクロノが

「えへん」とばかりに金色の瞳を輝かせて喉を鳴らした。


「ふふ、クロノちゃんもお手伝いしたのね。ありがとう」


セレスさんに優しく撫でられて、

クロノは満足そうに目を細めた。


開け放たれた窓から、少し涼しくなった夕方の風が吹き抜ける。

八月の暑い一日を労うように、黒猫亭の夜が優しく始まろうとしていた。

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