第八十五話 夏の定番と広がる涼
ガルドの熱烈な後押しもあり、
朔夜はさっそく店先の黒板を書き換えた。
『本日の甘味:サマーベルとハニードロップの特製ジェラート』
その右下には、冷たい器を前に満足そうに目を細める
クロノのチョーク画がちょこんと添えられている。
「よし、これで準備完了だ」
朔夜が満足そうに頷くと、足元でクロノが
「にゃ〜ん」と誇らしげに喉を鳴らした。
◆
お昼を過ぎると、太陽の熱気はますます強まり、
涼を求めてやってくる客が次々とドアを開けた。
「マスター! 黒板の冷たいデザートってこれかい?」
「はい、今の時期限定の果物をたっぷり使ったジェラートです」
運ばれていく涼しげな硝子の器に、
店内のあちこちから「わぁ、綺麗……!」と感嘆の声が漏れる。
「……んんっ! 冷たくて身体中に染み渡る……!」
「酸味と甘みのバランスが最高ね。生き返るわぁ」
◆
カランコロンとドアベルが鳴り、
今度はルカくんとお母さんがやってきた。
「サクヤお兄ちゃん、こんにちは! お外、すっごく暑いよ〜」
「いらっしゃい、ルカ。お母さんも。
今日はちょうど冷たくて甘いジェラートがあるよ」
運ばれてきた鮮やかなオレンジ色のジェラートに、
ルカくんは目を輝かせてスプーンを握った。
「うわぁ、シャリッとしてて、あまくて冷たくてすっごく美味しい!」
「本当に、果物の味が濃くて贅沢なデザートね」
親子で顔を見合わせてほころぶ笑顔に、
カウンターから見守るクロノも嬉しそうにしっぽを揺らす。
◆
水出し珈琲とジェラートの組み合わせを堪能する客や、
爽やかな冷たさに暑さを忘れてくつろぐ客たち。
黒猫亭の中だけは、まるで涼やかな別世界のような
心地よい空気に満たされていた。
(市場でおばちゃんに良い果実を教えてもらって本当によかったな)
手際よくグラスを洗いながら、朔夜は心の中で感謝した。
厳しい夏の暑さも、美味しい冷たさとみんなの笑顔があれば、
特別な思い出に変えていける。
八月の午後、黒猫亭には穏やかで涼しい時間が流れていくのだった。




