第八十四話 営業再開とひんやりのおすそ分け
二連休が明け、黒猫亭はいつも通りの朝を迎えた。
表の札を『営業中』へと裏返すと、
早くも照りつける八月の強い日差しに、
朔夜は眩しそうに目を細める。
「ふぅ、今日も暑くなりそうだな……」
カウンターの上では、クロノが定位置に座り、
「いらっしゃいませ」の準備万端とばかりに
金色の瞳をキラリと輝かせていた。
◆
開店して間もなく、カランコロンとドアベルが鳴り、
肩を落としたガルドが汗を拭きながら入ってきた。
「うへぇ……マスター、あちぃよ……。
連休明けるの待ってたぜ。冷たい水出し珈琲を一発頼む!」
「おはようございます、ガルドさん。
本当にお疲れ様です、すぐにお持ちしますね」
朔夜は氷を入れたグラスにキリッと冷えた水出し珈琲を注ぎ、
カウンター越しに差し出した。
「生き返るぜぇ……! やっぱこの苦味と冷たさがたまらん」
◆
息を吹き返したガルドを見て、朔夜はふっと微笑み、
冷蔵庫から小さな硝子皿を取り出した。
「ガルドさん、実は連休中に市場で見つけた果物で、
新しい冷たいデザートを試作してみたんです。
よければ味見してみませんか?」
「おっ、新作か!? もちろん食うぜ!」
目の前に置かれたのは、透き通るような鮮やかなオレンジ色の、
ひんやりとした『特製フルーツジェラート』だった。
◆
「うおっ、見た目からして涼しそうだな……いただきます!」
スプーンですくって口に放り込んだ瞬間、
ガルドの目がカッと見開かれた。
「……ッ!? なんだこれ、冷たくてめちゃくちゃ美味ぇ!
最初はサマーベルの酸味が爽やかに来て、
あとからすっげぇ濃厚な甘みが広がるぞ……!」
「ハニードロップという甘い果実を合わせているんです。
氷菓子ほど固くなく、口溶けを滑らかにしてみました」
「まさにこの暑い夏にぴったりだ!
マスター、これ早くメニューに出してくれよ。
絶対みんな飛びつくぜ!」
大絶賛するガルドの横で、クロノが「美味いでしょ」と
誇らしげに喉をゴロゴロと鳴らした。
連休明けの黒猫亭に、また一つ新しい笑顔が咲くのだった。




