第八十三話 夏果実の冷たいジェラート試作
市場から買ってきたばかりの『サマーベル』と
『ハニードロップ』をテーブルに並べ、
朔夜はエプロンをキュッと結び直した。
「さて、この最高の夏果実たちをどう活かすか……。
サマーベルの爽やかな酸味と、ハニードロップの濃厚な甘みを
うまく組み合わせれば、最高のジェラートができるはずだ」
カウンターの上で、クロノが興味津々といった様子で
ぴんと耳を立てながら見守っている。
◆
まずは丁寧に皮をむき、それぞれの果実の果汁と果肉を絶妙なバランスでボウルに合わせる。
ハニードロップの蜂蜜のような濃厚な甘みに、サマーベルのキリッとした柑橘系の酸味が加わることで、ただ甘いだけではない奥深い味わいになりそうだ。
「よし、これをしっかりと冷やしながら混ぜ合わせて……っと」
店にある冷気を作り出す魔法の道具や、現代知識を応用した冷却の工夫を凝らしながら、朔夜は手際よく作業を進めていく。
シャリシャリとした氷菓子の食感ではなく、口に入れた瞬間にとろけるような、なめらかな口当たりを目指す。
◆
何度か混ぜ合わせ、程よく冷やし固めたところで、
仕上げに小さく刻んだ果肉を混ぜ込んでいく。
深い硝子の器に盛り付けると、鮮やかなオレンジ色と透き通るような輝きが何とも涼しげで、見ているだけで暑さが和らいでいくようだ。
「お待たせ、クロノ。特製フルーツジェラートの完成だ」
朔夜が小さなスプーンに取り分け、クロノの前にそっと差し出す。
クロノはくんくんと匂いを嗅いだあと、待ちきれないといった様子で一口ペロリと舐めた。
◆
「にゃふっ……!」
その瞬間、クロノの金色の瞳が驚いたように丸くなり、
嬉しそうにしっぽを大きくふりふりさせた。
冷たくて甘酸っぱい味わいがよほど気に入ったのか、
もう一口とばかりに小さな舌で夢中になって味わっている。
「ふふ、気に入ってくれたみたいだな」
朔夜も自分用のスプーンで一口すくい、口へ運ぶ。
瞬間、サマーベルの爽やかな酸味が広がり、あとからハニードロップの濃厚で上品な甘みがふわりと追いかけてきた。
シャリッとした食感のあとに、なめらかにとろけていく最高の口溶けだ。
「……うん、大成功だな。これなら明日からの営業でも、
暑さに参っている常連たちをしっかり涼しくしてあげられそうだ」
初めての2連休の締めくくりに生まれた新しい冷たいデザート。
満ち足りた空気の中、黒猫亭の穏やかな午後がゆっくりと過ぎていくのだった。




