第八十二話 初めての連休と夏果実
『ルリリンゴの星空プリン』のイベントが終わってからの数日間、
ありがたいことに忙しい日が続き、黒猫亭は怒涛のバタバタだった。
そこで朔夜は、お店を開店して以来初となる『2連休』を取ることにしたのだ。
初日はクロノと泥のように眠り、日頃の疲れをしっかりと癒やした。
そして連休2日目の今日――。
体力をすっかり回復させた朔夜は、気分転換も兼ねて市場へ向かう準備を始める。
「クロノ、今日は一緒に行ってみるか?」
「にゃん……!?」
これまで一度も外へ出かけたことがなかったクロノは、
お出かけ用のかごを見せられると、金色の瞳を丸くして興味津々に鼻を近づけた。
こうして、記念すべき『初めての二人でお出かけ』が決まったのだった。
◆
しっかり蓋の開く抱っこ用のかごに入り、朔夜に抱えられながら、
クロノは初めて見る外の世界にドキドキとワクワクが止まらない様子だ。
活気に満ちた中央市場に到着すると、あちこちから賑やかな声が響いてくる。
「あら、サクヤさん! その可愛らしいお客さんはだれだい?」
「うちの看板猫のクロノです。今日は初めて連れてきてみました」
「まぁぁ、なんて綺麗な金色の目をした可愛い猫ちゃんだろう!」
市場のおばちゃんたちに囲まれて「可愛いわねぇ」となでなでされ、
クロノは照れくさそうに「うにゃぁ」と喉を鳴らしていた。
◆
果物屋の店頭には、氷水でキンキンに冷やされた
色鮮やかな異世界の果実たちが並んでいた。
「サクヤさん、今日は暑いからねぇ!
この『サマーベル』なんてどうだい? 果汁たっぷりで美味いよ!」
おばちゃんから試食させてもらったサマーベルは、
一口かじると甘酸っぱい果汁が口いっぱいに広がり、清涼感が突き抜けた。
「ん……! すごく瑞々しくて美味しいです」
かごからひょっこり顔を出したクロノも、
「美味しそうだなぁ」と鼻をひくひくさせて果実を見つめている。
◆
冷たい果実の美味しさを味わいながら、
朔夜はふと、日本の八月……お盆の時期のことを思い出していた。
(向こうではこの時期、冷やした水羊羹や果物で涼をとっていたっけ……。
せっかくの2連休だし、明日からの営業に向けて、
このサマーベルの果肉をたっぷり使った『冷たいジェラート』を作ってみようか)
「おばちゃん、このサマーベルをいただきます。
それと……僕もまだこっちの果物を全部知っているわけじゃないので、
今の時期にしか出回らないような甘い果物があったら、教えてもらえますか?」
「それなら、この『ハニードロップ』がお勧めだよ!
夏の盛りだけの果物でね、蜂蜜みたいに濃厚で甘いんだ!」
「へえ、美味しそうですね! じゃあそれもたくさんいただけますか?」
◆
買い求めたどっさりの夏果実をかごに詰め、
朔夜とクロノはホクホク顔で黒猫亭へと戻ってきた。
「よし、クロノ。無事にお出かけもできたし、
連休の仕上げに『特製フルーツジェラート』の試作、始めるぞ!」
「にゃーん!」
初めてのお出かけを大満足で終えたクロノは、
誇らしげにしっぽをピーンと立てて返事をするのだった。




