第八十一話 陽だまりの瞳と小さな休日
大盛況だった期間限定イベントが明け、
黒猫亭はいつも通りの穏やかな朝を迎えていた。
仕込みと開店準備を早めに終わらせた朔夜は、
今日を『特別にのんびり過ごす日』と決め、
看板を準備中のままにして厨房から出てきた。
窓からは温かな日差しが差し込み、
店内を優しく包み込んでいる。
「ふぅ……久しぶりに、ゆっくりできるな」
出来立ての温かい珈琲をカップに注ぎ、
朔夜はカウンターの席に腰を下ろした。
◆
「にゃ〜ん」
甘い声を上げてやってきたのは、クロノだ。
膝の上にぽんと飛び乗ってくると、
心地よさそうに丸くなり、喉をゴロゴロと鳴らし始める。
窓からの光を受けて、クロノの瞳がキラリと輝いた。
黒い毛並みに映える、吸い込まれそうなほど美しい金色の瞳。
その瞳が、眩しそうに細められていく。
「お前も、イベントの間ずっと看板猫を頑張ってくれたもんな。
今日は一日、ここでゆっくりしよう」
朔夜が顎の下を撫でてやると、
クロノは「うにゃう」と満足そうに返事をした。
◆
静かな店内に、珈琲の香ばしい湯気と
クロノの規則正しい寝息だけが満ちていく。
膝の上の温もりを感じながら、朔夜はぼんやりと
今回のイベントのことを思い出していた。
(気密瓶のおかげでルリリンゴの良さを引き出せた……。
あの技術があれば、今後は果物のシロップ漬けや
ジャムなんかも作れるかもしれないな)
忙しかった日々が過ぎ去り、頭の中に
新しいアイデアがふつふつと湧いてくる。
それもこれも、黒猫亭を愛してくれる客たちと、
隣にいてくれるクロノのおかげだった。
◆
「さて……明日からまた、美味いものを楽しんでもらわないとな」
そっとクロノの背中に手を添えると、
金色の瞳をほんの少し開けたクロノが、
「任せて」と言うように朔夜の手のひらに頭を擦り寄せてきた。
陽だまりの中で温かいエネルギーをたっぷりと充填し、
黒猫亭の小さな休日は、静かに過ぎていくのだった。




