第八十話 一番乗りの念願と星空の終わり
翌朝、黒猫亭の開店とほぼ同時に
ドアが激しく押し開けられた。
「マスター! 一番乗りだぞ!!」
息を切らして飛び込んできたのは、宣言通りのガルドだった。
本当に誰よりも早く駆けつけたようで、
店内にはまだ他のお客の姿もない。
「おはようございます、ガルドさん。
本当に一番乗りですね」
「おうよ! 今日こそは絶対に逃さねえって決めてたからな!
例の『星空プリン』と水出し珈琲、頼む!」
◆
「……ッ!? なんだこれ……!
プリンが口の中でとろけるのに、この瑠璃色のソースが
すっごく爽やかで……美味すぎる!!」
豪快に口へ運び、すかさず水出し珈琲を一口流し込んだガルドは、
「くぅぅっ……!」と深く唸り声を上げた。
「ビターな珈琲が甘さをキリッと締めてくれやがる……!
昨日あいつらが羨ましがってた理由がよく分かったぜ!」
念願のプリンを綺麗に完食し、ガルドは大満足の笑顔で店を後にした。
◆
そして夕方。噂を聞きつけた客たちが次々と押し寄せ、
用意していた最後の『星空プリン』は、あっという間にすべて売り切れた。
「申し訳ありません。これで今回の『星空プリン』はすべて完売となります」
「まじか〜! もう終わりなのか! 食えたやつが羨ましいぜ!」
残念がりつつも「また次の限定も楽しみにしてるぜ!」と
笑顔で帰っていく客たちの背中を見送りながら、朔夜はふっと笑みをこぼした。
(なんだかんだ言って、異世界の人たちも
『期間限定』っていう言葉には目がないんだな……)
日本でも異世界でも、今しか味わえない特別な体験に
心を躍らせる気持ちは変わらないのだと、朔夜はしみじみと実感していた。
◆
パタンと静かにドアを閉め、表の黒板を丁寧に拭き上げる。
『期間限定』の文字が消え、ルリリンゴの星空プリン企画は
大盛況のうちに無事、幕を閉じた。
「さて……クロノ、お疲れ様。次はクロノの番だな」
看板猫として黒板のモデルになり、接客を頑張ってくれたクロノのために、
朔夜は新鮮な鳥ささみを細かく刻み、出汁でじっくり煮込んだ特製スープを作った。
「お待たせ、頑張ってくれたお礼だ」
カウンターに器を置くと、クロノは「にゃ〜ん!」と歓声を上げ、
嬉しそうにしっぽをパタパタと振りながら夢中でスープを舐め始めた。
愛猫の幸せそうな姿を優しく撫でながら、朔夜は深く満足の息をつく。
特別な『星空プリン』がもたらしてくれたたくさんの笑顔を胸に、
黒猫亭はまた、いつもの穏やかな日常へと戻っていくのだった。




