第七十九話 瑠璃色の余韻と完売御礼
日が完全に落ち、夜の深まりと共に
黒猫亭の熱気は最高潮を迎えていた。
「おいマスター! 俺にも例の『星空プリン』と水出し珈琲くれ!」
「申し訳ありません、ガルドさん。ちょうど今ので『本日分』は完売となってしまいました」
厨房で手際よく皿を下げていた朔夜が申し訳なさそうに伝えると、
カウンターに滑り込んできたガルドは「なにぃ!?」と大声を上げた。
「くっそ〜! 一足遅かったか……!」
頭を抱えて悔しがるガルドの横で、
運良く『最後のひとつ』を射止めた常連の男が、
ドヤ顔でスプーンを構えていた。
◆
「悪いなガルド! この最後のひとつは俺の胃袋に収まる運命だったのさ!」
「てめぇ……一口味わって食えよな!」
羨望の視線を一身に浴びながら、男は瑠璃色のソースがかかった
星型のプリンを口へと運ぶ。
途端にその表情がとろけるような笑顔に変わり、
セットの水出し珈琲をコクりと飲んで、深いため息をついた。
「……はぁぁ、うめぇ。濃厚なのに後味がすっきりしてて、
いくらでも食えそうだ……! 明日も絶対食いに来るぞ!」
「ガルドさん、明日もまたしっかりと仕込んでおきますので、
ぜひお早めにいらしてくださいね」
◆
「本日の『星空プリン』、全て完売となりました。
皆さん、本当にありがとうございました!」
朔夜が感謝を込めて深く頭を下げると、
店内からは大きな拍手と歓声が沸き起こった。
「マスター、また明日も頼むぜ!」
「最高のデザートだったよ!」
「おいおいお前ら、明日の分は俺が絶対食うんだからな!
一番乗りの席は誰にも譲らんぞ!」
ガルドが指をさして周囲を威嚇すると、「ハハッ、負けねえぞガルド!」と
店内は最後まで大きな笑い声に包まれた。
大満足の表情を浮かべた客たちが、名残惜しそうに、
けれど晴れやかな笑顔で一人、また一人と店を後にしていった。
◆
パタンと静かにドアが閉じ、店内に静寂が戻る。
「……ふぅ、すごかったな」
朔夜が安堵の息をつくと、カウンターの上で
ずっと看板猫を務めていたクロノが「にゃ〜ん」と甘えた声を出し、
朔夜の腕にすり寄ってきた。
「お疲れ様、クロノ。お前のおかげで大盛況だったよ」
愛猫の頭を優しく撫でながら、朔夜は空になった厨房を見渡す。
現代の知識と異世界の魔法、そしてみんなの笑顔が繋いだ特別な一日。
心地よい疲労感と確かな手応えを胸に、
黒猫亭の夜は静かに更けていくのだった。




