第七十五話 極上のペアリングを探して
レインに硝子瓶を注文してから、二日が過ぎた。
瓶が手元に届くまでの七日間、朔夜はただ手をこまねいて
待っているつもりはなかった。
(せっかくの期間限定スペシャルデザートだ。
プリン単体だけでなく、その味を一番引き立てる
『最高の飲み物』もセットで提案したいな)
厨房の作業台に、様々な珈琲豆と茶葉を並べ、
朔夜は静かに腕を組んだ。
瑠璃色のソースは、ルリリンゴの上品な甘みと
レモンの爽やかな酸味が特徴だ。
合わせる飲み物によって、その美味しさは
何倍にも跳ね上がるはずだった。
◆
「まずは、甘みの強いミルク系や甘味入りの紅茶……は、ダメだな」
試してみたものの、プリン自体のまろやかなコクと喧嘩してしまい、
口の中が重たくなってしまう。
「となると、一口ごとに口の中をリセットできるような、
すっきりとした味わいが理想だが……」
お店に来るお客さんは様々だ。
ガルドたちのようにガッツリとした苦味やコクを求める男性客もいれば、
華やかな香りや軽やかな後味を好む女性客もいる。
「……よし、どちらのお客さんにも喜んでもらえるよう、
二種類から選べるペアリングセットにしよう」
方針が決まると、朔夜の動きは俄然素早くなった。
◆
一つ目は、男性客や甘さをキリッと締めたい人向けのドリンク。
深煎りの珈琲豆をじっくりと時間をかけて抽出した、
雑味のない『水出しアイス珈琲』だ。
キリッとした深みのある苦味が、プリンの濃厚さを引き締め、
ルリリンゴの爽やかな酸味をくっきりと際立たせる。
そして二つ目は、女性客や香りを楽しみたい人向けのドリンク。
すっきりとした柑橘系の香りを纏わせた『ストレートアールグレイ』。
ベルガモットの華やかな香りがルリリンゴの風味と調和し、
上品で贅沢な余韻を口いっぱいに広げてくれる。
「うん、これならどちらを選んでも完璧な組み合わせだ」
◆
ふと横を見ると、作業台の端で
クロノが二つのカップから立ち上る香りを
鼻をピクピクさせながら交互に見つめていた。
「どうだクロノ。どっちの香りも悪くないだろ?」
朔夜が優しく問いかけると、クロノは「にゃあ」と
短く満足そうに喉を鳴らし、しっぽをゆったりと振った。
プリンの美味しさを限界まで引き出す、二つの極上ドリンク。
着々と整っていくおもてなしの準備に、
七日後の開店がますます待ち遠しくなる朔夜だった。




