第七十四話 商人の驚嘆と七日間の約束
翌日の夕方、約束通りドアベルが軽やかに鳴り、
期待に胸を膨らませたレインが店へと姿を現した。
「やあサクヤ! 昨日の瓶はどうだったい?
君の厳しい実験に、あの子は耐えられたかな?」
「おかげさまで、完璧でしたよ」
朔夜は頼もしい笑みを浮かべると、
厨房の奥から昨夜仕込んだ瑠璃色の瓶を取り出し、
カウンター越しにレインの前へと置いた。
◆
「おや……?」
レインは瓶を手に取り、まずは光に透かしてじっくりと観察する。
加熱による歪みやヒビは一切なく、
中に閉じ込められたソースは鮮やかな青色を保ったままだ。
さらに蓋の留め具に手をかけ、開けようと力を込めた瞬間、
レインは驚きに目を見開いた。
「なっ……! 蓋がビクともしない……!?」
「熱を入れて中の空気を抜いた状態で密閉したんです。
これで中の鮮度を長期間保つことができます」
◆
「すばらしい……! 熱の処理と気密の術式を
そこまで正確に組み合わせて使いこなすなんて!」
大商人であるレインですら、ここまでの完璧な保存状態は
めったにお目にかかれないと、興奮気味に感嘆の声を上げた。
カウンターの隅では、クロノが「昨日ぼくもチェックしたんだからね」と
言いたげに胸を張り、尻尾をパタパタと振っている。
「レインさん。これで期間限定メニューとして出す目処が立ちました。
正式に、あの硝子瓶をまとめて注文させてください」
「もちろんだとも! 君のような素晴らしい料理人に使ってもらえるなら、
あの瓶も本望というものさ」
◆
レインは快く頷き、取り寄せに七日ほどかかる旨を伝えると、
ふと思い立ったように少し照れくさそうに切り出した。
「……ところでサクヤ。七日後に瓶を届ける時、
差し支えなければ、そのソースを詰めた瓶を『自分用』に一瓶、
買い取らせてもらえないかい?
お店で食べるのは勿論だが、自分だけの楽しみとして手元に置いておきたくてね」
大商人が見せた素直なおねだりに、朔夜は思わず笑みをこぼした。
「買い取るなんてとんでもない。
今回はこんなに珍しい果実を譲っていただいた上に、
手に入りにくい瓶の手配までお願いしているんです。
良かったら、その一瓶はお礼として受け取ってください」
「おや、いいのかい? それは……最高のお礼だよ!」
◆
レインは嬉しそうに目を細め、胸を叩いた。
「よし! では七日後、最高の状態で瓶を届けるよ。
楽しみに待っていておくれ!」
「よろしくお願いします。こちらも
受け入れの準備と仕込みを完璧に整えておきます」
しっかりと握手を交わし、レインは満足そうに店を後にした。
七日後、あの硝子瓶が揃えば、いよいよ幻の果実を使った
瑠璃色のプリンがお店にお目見えする。
朔夜とクロノは顔を見合わせ、これから始まる楽しげな忙しさに向け、
静かに意気込むのだった。




