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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第七十三話 熱の試練と確かな手応え




静まり返った夜の厨房に、グラグラと大きな手鍋で

お湯が激しく沸き立つ音が響いていた。


朔夜はレインから買い取った『気密の硝子瓶』を、

トングで傷をつけないよう静かに熱湯の中へと沈める。

急激な温度変化で割れてしまわないか注視していたが、

瓶は何の歪みも見せず、熱湯の中で静かに気泡を纏っていた。


(耐熱性は合格だな。ガラスの質も申し分ない)


そのまましっかりと煮沸消毒を施してから取り出し、

清潔な布巾の上で水分を綺麗に飛ばす。

準備が整うと、冷やしておいた瑠璃色のルリリンゴソースを、

瓶の八分目あたりまで丁寧に注ぎ入れていった。





ここからが本番だ。

朔夜は蓋を軽く乗せただけの状態で、再び瓶ごと湯煎にかける。

瓶の中の空気を温めて膨張させ、外へと追い出す『脱気』の工程だ。


十分に温まったところで湯から引き揚げ、

熱いうちに留め具をカチリと固く締め上げた。

これで冷えていくにつれて中の圧力が下がり、

完璧な密閉状態——現代でいう真空保存が完成する。


氷水を使ってゆっくりと全体を冷やしていくと、

留め具の奥で小さな金属音が鳴り、

蓋がキュッと固く吸い付くように密着した。





「……よし、完璧だ」


完全に冷めきった瓶を持ち上げ、逆さにしてみる。

一滴のソースも漏れ出すことはなく、

蓋を開けようとしても、密閉された圧のおかげでビクともしない。

異世界の気密術式と現代の保存知識が見事に噛み合い、

ルリリンゴの鮮度と風味を長期間閉じ込めることに成功したのだ。


「これで期間限定メニューとして、安心して提供できるな」


安堵の息をつく朔夜の横で、

テーブルに飛び乗ってきたクロノが、

カウンターの上に置かれた丸いガラス瓶を不思議そうに見つめていた。





ひんやりと冷えた美しい瑠璃色の瓶。

クロノは首をかしげると、艶やかな黒い毛に包まれた

丸い前足をそっと伸ばし、ガラスの表面を

ちょいちょいと器用に突っついてみた。


ツルツルとした感触と、かすかに鳴る軽い音に満足したのか、

クロノは満足そうに「にゃあ」と一鳴きする。


「お前も合格だと思うか? よし、明日レインさんが来たら、

正式に必要な数をまとめて注文するとしよう」


相棒の可愛らしい仕草に目元を緩めながら、

朔夜は愛おしそうに瑠璃色の瓶を撫でた。

いよいよ、幻の果実を使った特別なデザートを

店に出すためのカウントダウンが始まろうとしていた。

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