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『潰れかけ喫茶店ごと異世界転移したので、黒猫と静かに営業していたら最強の休憩所になっていました』  作者: CASCADE


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第七十二話 職人の目と瑠璃の器




賑やかだった昼の営業が終わり、西の空が茜色に染まる頃。

朔夜がカウンターを拭き上げていると、

カランカラン、と小気味よいドアベルの音が店内に響いた。


「やあサクヤ。約束の物を持ってきたよ」


旅の商人レインが、手頃な大きさの木箱を抱えて

にこやかに微笑みながら入ってきた。

カウンターの隅で丸くなっていたクロノが、

むくりと頭を上げて長い尻尾をゆっくりと揺らす。


「待っていましたよ、レインさん」


朔夜が手を止めて出迎えると、レインは木箱を丁寧に

カウンターの上へと置き、その蓋を静かに開けた。





中から現れたのは、一つの美しいガラス瓶だった。


この世界の市場で見かける歪なガラス器とは明らかに違い、

表面に凹凸がなく、均一な厚みで作られている。

金属製の留め具と、特殊な樹脂のようなもので作られた

気密性を高めるためのパッキンが蓋の内側に施されていた。


「これが例の魔導具の一種、『気密の硝子瓶』さ。

蓋を閉めると魔法的な術式が働き、

中の空気を遮断して、外からの影響を完全に防ぐ。

ある特殊な工房でしか作られていない、なかなかの高級品だよ」


レインが誇らしげに説明するのを引き継ぐように、

朔夜はその瓶をそっと両手で持ち上げた。





朔夜の目が、プロの料理人のそれに変わる。


まずは光に透かし、ガラスの内部に細かい気泡や

ひび割れに繋がりそうな傷がないかを細かくチェックする。

次に蓋を何度も開閉し、留め具の噛み合わせの硬さや、

パッキンが隙間なく密着しているかを指先で確かめた。


(厚みは十分にある。現代の広口瓶に近い造りだ。

これなら、熱湯に入れても急激な温度変化で割れる心配はなさそうだな)


じっと無言で瓶を調べ上げる朔夜の横顔を、

レインは感心したように、どこか楽しげに見守っている。





「……うん、確かに素晴らしい造りです。これならいける」


朔夜の厳しい審査をクリアし、ようやく表情が緩んだ。


「レインさん、約束通り、まずはこの見本の一個を買い取らせてください。

実際に熱をかけて煮沸消毒をして、

本当に僕の思う通りの密閉ができるか、一度試してみたいんです」


「毎度あり。本当に君の目利きは恐れ入るよ」


レインは快く応じ、提示された代金を受け取った。

「さあ、君の厳しい実験にその瓶が耐えられるか、僕も楽しみにしているよ」と

エールを残し、商人は満足そうに店を後にした。


残された朔夜は、手元の一瓶を見つめ、不敵に微笑む。

「よし、クロノ。さっそく準備にかかろうか」

「にゃお」


大きな手鍋にお湯を沸かし始め、朔夜はいよいよ、

異世界の技術と現代の知識を組み合わせた、

ソースの長期保存実験へと足を踏み出すのだった。

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